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チェロの力学
第7章 ウルフキラーの振動
と 効果
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ウルフキラーの振動の模型 |
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ウルフキラーの振動・・・まとめ
よく鳴るチェロの泣きどころ
ウルフトーン・・・ を軽減させるためのこの小さなパーツ・・・ウルフキラー
。
誰が考案したのか、私は知りませんが、経験から生み出されたパーツと思われます。
今では、形状・重量のさまざま、あるいは、途轍もなく大きく、2弦に跨って取り付けられるタイプのもの・・・色々な物が作られ、販売されています。
今回、私は、振動工学的にその挙動を調べてみましたが、左のようなオーソドックスな形状・重量のものは、理にも適っており、特段、他への悪影響もなさそうなことがわかり、
さらに、
この小さなパーツ・・・ ウルフトーン・・・ を完全にはなくせないまでも、
殆ど気にならない程度まで低減できるその効果には、絶大なものがあることを確信いたしました。
ウルフトーン・・・ を
完全にはなくせない・・・それは、そのチェロが良い証拠・・・と諦めましよう。
右のタイプは、工房ミネハラが試験的に製作したものです。
下に再掲載した図や
VIDEO アイコン
は、これまでに出てきた主なものを再掲載したものです。 画像をクリックすると大きくご覧いただけます。
A |
B |
C |
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よく鳴るチェロは
この辺にウルフトーンが発生する |
ウルフキラー
を選んで、取付位置を調整する。
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ウルフキラー
が振動する固有振動数は、
重量と取付位置により、一義的に決まる。 |
D |
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ウルフキラー
を取付けた状態で演奏すると、
ウルフキラー
の固有振動数に合う演奏音で、ウルフキラー
は大きく振動する。 |
したがって、こちらで事例を示したウルフトーン低減策
ウルフキラー (ウルフ止メ)
の位置を調整して、ウルフトーン の出ている振動数に合わせる。 (ただし、微調整は必要ですが)
これが、ウルフトーンを少しでも低減する対策法 です。
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は、理に適ったウルフトーン低減策だったことが、改めて検証できました。
最後に、下の図 ウルフキラー振動の強さ 計測結果 をもう一度見てみましょう。
この計測結果は、2本のチェロ、2種類のウルフキラー
、取付位置をそれぞれ5ヶ所として、ウルフキラー振動の強さ
を計測したものですが、すべてのケースにおいて、ほぼ理屈に適った傾向を示していると考えられます。
ウルフトーン は、通常、e-f-f#
辺りの音に出ますが (特に、
G
線のe-f-f#
辺りが顕著)、この音に合わせてウルフキラーを調節して取り付けると、その音の1オクターブ低い音を弾いた時もウルフキラー
は強く振動してくれますので、僅かではあっても、その音の改善に効果はあると思われます。 そんなことを意識して
C
線のE-F-F#
辺りを、極小さな音量で弾いてみると、弓の引っ掛かりは少ないような気はしてきます。
下の図で、チェロの最低音
C
を弾いた時に、ウルフキラー
の振動がやや強くなる傾向が見られますが、これは、テールピースがその音に共振して、その結果ウルフキラー
の振動もやや大きくなったものです。 しかし、この程度の増加が、チェロの最低音 C
の鳴りを改善してくれているかは、定かではありません。 ほとんど、効果は無い・・・と考えた方が正しいと思います。
ここで用いた2種類のウルフキラー
に関しては、サイズが
Short
タイプ(写真右)の方が、カバーできる音の幅が若干広いように思われます。 これは、ウルフキラー
の重量が1点に集中するために、ウルフキラー
が共振する振動数の範囲が広がるため・・・と考えられます。 ただし、左の2種類のウルフキラー
の寸法範囲であれば、極端な差はないと思われます。
今回の検証では、Long
タイプ 重量
4.7gr の物が、重さの重いものでしたが、市販のウルフキラー
には、これよりもっと重いものがあります。 重いウルフキラー
は、共振振動数が下がりますので、それを、取付位置でカバーしようとすると、ウルフキラー
を駒に近づけて取り付けることになってしまいます。 駒近くに重さのあるものを取り付ける・・・これは、ミュート(弱音器)になってしまいますので、あまりお勧めできません。
よって、ウルフキラー
としては、出来る限り軽いもの、更に言えば、短いもの・・・こういう物を探して取り付けると、良い結果が得られると思います。
また、下の図で、ウルフキラー
の振動が小さいところ・・・ここでは、チェロが良く鳴らない・・・なんて考えるのは、まったくの勘違いです。
ウルフキラーはウルフの出ている音が駒の振動を殺してしまうことに対して、駒の振動にウルフキラーの振動を加算して、駒の振動を助けてやろう・・・と言うものですから、
ウルフキラーはウルフの出てない音に対しては、何ら必要がないものなのです。 それらの音は、チェロ本来の鳴りが良いか否かで決まっているのです。
図27 ウルフキラー振動の強さ 計測結果 (再掲載)
Wolfkiller |
Kreuzinger |
"Hiroki" |
Long |
|
|
Short |
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以上で、ウルフキラーの挙動検討を終わらせて頂きます。
最後に、現実のウルフトーン
と ウルフキラー
を取り付けた時の音の違いをお聴き頂きます・・・
SOUND アイコン
をクリックして実際の演奏音をお聴きください。
D
線で d-e-f-f#-g-g-f#-f-e-d
を 弱奏と強奏で、各一回弾いています。
途中で、「ぽこっ、ぽこっ」
と 3回の音が聞こえますが、ウルフキラーを取り付け、ウルフキラー近くを指で弾いた時の音です。 この状態で、d-e-f-f#-g-g-f#-f-e-d
と弾いています。
これを、下の表の順番で、弾いています。
皆様でしたら、どれが良い・・・と感じますか。 私は、上の表の、赤色で塗った取付状態が、最も弾きやすい・・・と感じています。
最後に、実際のウルフが出ている時の音色と、ウルフキラーを付けた時の
音色 の違いに就いて見てみましょう。
上の
Kreuzinger の演奏音から、ウルフキラーを付ける前と、付けた後の
d-e-f-f#-g の部分を切り出して、このチェロのウルフトーンが一番目立つ
f# の音について、周波数分析をした結果を下に示しました。
Cello |
SOUND
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演奏音
周波数分析 |
Wolfkiller |
取付,取付位置 |
Kreuzinger |
前半 なし
後半 付き
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|
なし |
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Long |
19 mm |
周波数分析の画像を比較して頂くとわかると思いますが、ウルフが出ている状態では、周波数成分の基本音と3倍音が突出していて、2倍音が減少しています。 また、2,000-3,000Hz
辺りの倍音のレベルも小さくなっています。
それに対して、ウルフキラーを付けた状態では、基本音と3倍音のピークはやや減って、2倍音が増加しています。 さらに、2,000-3,000Hz
辺りの倍音も大きなレベルになってきています。
すなわち、ウルフが出ている・・・倍音が少なく・鼻づまり音 の状態が改善され、倍音のバランスの良い、本来のチェロの響きが戻ってきたことがわかりました。
長い話を、最後までお読み下さいまして、有難う御座いました。
貴方のチェロのウルフトーン改善のお役に立ったら・・・幸いです。
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工房ミネハラ
Mineo Harada
Updated:2008/5/23
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