チェロの力学

第6章 ウルフキラー (Wolfkiller) の挙動を解明する

★ウルフキラー振動系の固有振動数

red.gif (61 バイト)

 
ウルフキラーの振動の模型

 

red.gif (61 バイト)

ウルフキラー振動系の固有振動数・・・

振動系の固有振動数を調べる方法は、非常に簡単です。

振動系を叩く・・・と、振動系は固有振動数で振動をします。 ただし、すぐに減衰して止まってしまいますが。 

そこで、叩いた直後の振動の波形の中に、どのような周波数成分が含まれているかを調べれば、振動系の固有振動数を知ることができます。

 

叩いた時に出る音は・・・タップトーン と呼ばれ、バイオリン、チェロ、ギター…などを作る時に、表板や裏板などを叩いて、その固有振動数を知る方法と同じです。

 

それでは、ウルフキラー振動系 を叩いてみましょう。 

下の、図30 と 図31 をご覧ください。   SOUND アイコン  をクリックして、音を聴いてください。 一番はじめに一瞬 「ポコッ・・・」と聞こえる音が、叩いた時に出る音・・・タップトーン です。

 

ウルフキラーは、下の表の位置に取り付けた状態で叩いたものです。

  Wolfkiller Kreuzinger "Hiroki" タップトーン

30

Long 19 mm  

31

Short   32 mm

 

30  ウルフキラー振動系 タップトーン の周波数分析

 

31  ウルフキラー振動系 タップトーン の周波数分析

 

図30 と 図31 の、右側画面  青い線  が ウルフキラーを叩いた時の音タップトーン に含まれる周波数成分です。 

この波形のピークを示す周波数が、ウルフキラー振動系 (厳密には、ウルフキラーだけでなく、テールピースの振動も含んだ) の固有振動数を示しています。 その中で、二つの大きなピークの数値は、下記のようになっています。

  Wolfkiller Kreuzinger "Hiroki"

30

Long  53.83Hz

 177,6 Hz
 

31

Short    53.83Hz

 172.2 Hz

 

このデータの中に、今まで気にしなかった数値が含まれていました。 

こちらで検討したようにウルフキラー (Wolfkiller) の取付位置 の設定では、 170-180 Hz  前後の振動数が計測される・・・とばかり考えていましたが、それよりずっと低い振動数の  53.83Hz  という数値が、二つのチェロから検出されました。

ウルフキラー振動系 (厳密には、ウルフキラーだけでなく、テールピースの振動も含んだ) において、この  53.83Hz  という低い数値の振動は、一緒に繋がっているテールピース固有振動数と考えられます。

 

すなわち、ウルフキラーを叩くと、ウルフキラーだけが振動するのでは無く、テールピースも一緒に、その固有振動数で振動する・・・というものです。 テールピースは その重量が 約80gr と、ウルフキラーの重量の20倍程度の重さがありますので、テールピースの振動の固有振動数はこのような低い値になるものと考えられます。 

 

ただし、この  53.83Hz  という低い数値の振動は、チェロの最低音 C の音の振動数が  65.4Hz  ですので、それより更に低い振動数であること・・・、また、  53.83Hz  の 2倍の振動数成分も大きくないこと・・・を考えれば、ウルフキラー振動系 を考える上では、あまり大きな影響を及ぼすもので無い・・・と思われます。 後で、その影響については若干触れます。

red.gif (61 バイト)

従って、ここで注目すべきは、  170-180 Hz  前後の振動数が計測された・・・ということです。

 

すなわち、


 
ウルフキラーは、その重量や取付位置に従った、固有振動数を持つ。

 取付位置が変われば、その固有振動数もわずかに変化する。

ということが、はっきりと分りました。

こちらで検討したようにウルフキラー (Wolfkiller) の取付位置 の設定において、ウルフキラー の振動数を計算で予測しています。 その値と、本ページで計測された実際のウルフキラー 固有振動数 を比較してみましょう。

 

7 ウルフキラー固有振動数

Wolfkiller Kreuzinger "Hiroki"
Size Weight(gr) 取付位置 ( l mm) 固有振動数 (計算値) 固有振動数 (実測値) 固有振動数 (計算値) 固有振動数 (実測値)
Long 4.7 19 mm  170 Hz  177,6 Hz    
Short 4.0 32 mm      172 Hz  172.2 Hz

計算で予測した値と、実測値は ほぼ一致していると考えます。

 

こちらで、

 ウルフキラーテールピース固有振動数(整数倍を含む) が、

 強制振動 の振動数 やその倍音の振動数と合うか、それに近いところで、

 ウルフキラーテールピース共振して強く振動する・・・

と書きましたが、その事実を次の図で示します。

 

図32 ウルフキラーの振動の様子・・・下の画像をクリックすると、大きくご覧いただけます。

   Kreuzinger  は、 C 線の F と、 D 線の f を 、 "Hiroki"  は、 C 線の E と、 D 線の e を弾いた時のウルフキラーの振動を示したものです。

Wolfkiller Kreuzinger
Size Weight
(gr)
取付位置
(
l mm)
Long 4.7 19 mm ウルフキラー固有振動数

 177,6 Hz
Case 2

演奏音 F ; 87.3Hz を弾く

Case 3

演奏音 f ; 174.6Hz を弾く

 

Wolfkiller "Hiroki"
Size Weight
(gr)
取付位置
(
l mm)
Short 4.0 32 mm ウルフキラー固有振動数

 172.2 Hz
Case 2

演奏音 E ; 82.4Hz を弾く

Case 3

演奏音 e ; 164.8Hz を弾く

画像をクリックしてご覧頂くとわかると思いますが、これら何れの場合も、強制振動 の振動数(演奏音)やその倍音の振動数と合うか、それに近いところで、  ウルフキラーテールピース共振して強く振動する・・・

ということが、分りました。

さらに、詳しく見ると、ウルフキラー 固有振動数 の手前(低い振動数)では、やや広い範囲の振動数に共振し、固有振動数 を超えると、急に共振しなくなる・・・と言うこともわかります。 これは、強制振動 の一般的な周波数応答特性です。

red.gif (61 バイト)

ウルフキラーの振動の アニメーション

以上、ここまでで分かってきた事を、  アニメーション  にしてみました。 

ウルフキラーの振動は、下の  アニメーション  のように動いていると考えられます。  セルの色は、上の画像のケースと合わせてあります。

 

図32 ウルフキラーの振動 アニメーション  ・・・下の図をクリックすると、  アニメーション  をご覧いただけます。

Case 1

Case 2

Case 3

基本的に、ウルフキラーテールピースは、

演奏音の振動数と同じ振動数で振動する。

 

強制振動 させられている。

演奏音の2倍の振動数と、ウルフキラー固有振動数が合うと、

テールピース演奏音の振動数で・・・、

ウルフキラー演奏音の2倍の振動数で大きく振動する。

演奏音の振動数が高くなると、テールピースは動かなくなるが、

演奏音の振動数と、ウルフキラー固有振動数が合うと、

ウルフキラーは大きく振動する。

 

red.gif (61 バイト)

テールピース固有振動は、どんな影響があるか・・・

上で、テールピース固有振動は、ウルフキラー振動系 を考える上では、あまり大きな影響を及ぼすもので無い・・・と思われます。 ・・・と書きましたが、実際にはどんな所に影響が表れてくるか・・・最後に調べてみました。

こちらで、 テールピース振動計測 フォトセンサー  もご紹介しましたが、この計測方法でテールピースの振動のみを計測してみました。

実際の演奏は最低音の C から、第4ポジションの g まで弾いて、テールピースの振動の強さを 計測し、下の図32に示しました。

テールピース固有振動数は、  53.83Hz  という低い数値なので、チェロの最低音 C の音  65.4Hz  を弾いても大きな振動のピークは現われませんでした。 

しかし、 53.83Hz  の2倍の  100Hz  前後には、少しながら振動のピークが観測されました。 このことから、下の図のように、テールピース固有振動数は、おおむね、 約50Hz  前後にある・・・と言うことが裏付けられました。

テールピースに関しては、この実験で主に示してきた Bowxwood 製 のほかに、ウイットナータイプの Aluminum製 も試してみましたが、それらの差異はほとんどありませんでした。

また、ウルフキラーを取り付けた状態と、ウルフキラーの無い状態での比較もしてみましたが、下のデーターのように、その差は全くありませんでした。 それは、ウルフキラーの重量が、テールピースの重量の 1/20 と小さいため、ウルフキラーが付いても、付かなくても、テールピースの振動は全く変わらない・・・という事になります。

 

図32 テールピース振動計測結果

次章では、これらの計測結果も含めて、今までの話を整理してまとめてみましょう。。


前ページ 次ページ

目次に戻る

menu.gif (338 バイト) フロントページ

■Copyright (c) Lab Minehara, All rights reserved.  このページに掲載の全てのコンテンツ (記事、画像データ・数値データなど) の無断転載 ・公開等はお断りします。


工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2008/5/23