前回の、コーヒーブレークタイム にて、ギターフレットの割り出しは、
古くは、Vincenzo Galilei
の考案した、フレットの位置を割り出すために、18 と言う数値をう
Rule
of Eighteen
(18 のルール) を使って来た・・・と説明しましたが、上のギターのような、20世紀に入ってから作られたギターは、
現在の平均律で計算されていると思われます。
その場合、18 ではなく、Fret Factor = 17.817 を使うことも、前回説明しました。
ギターのフレット位置データは、なかなか簡単に入手できるものではありませんが、
幸いなことに、昭和50年7月 ( July, 1975 ) に、現代ギター社から出版された、「現代ギター 7月臨時増刷 ギターの知識」
に、ギターのフレット位置データが掲載されていました。
今回、この ギターの力学
を公開するに当たって、Domingo Esteso
(1925年作) と Jose
Ramirez V(1965年作)
のデータがありましたので、皆様にご紹介します。
(注) ギターのフレット位置データは、まだ他にも掲載されていますが、ここでの紹介は、省略しました。
Domingo Esteso
(1925年作) と Jose
Ramirez V(1965年作)
のフレット位置データと弦長は下表の通りです。
|
Domingo Esteso
(1925年作) |
Jose Ramirez
V(1965年作) |
FRET # |
フレット位置 (mm) |
フレット位置 (mm) |
0 |
0 |
0 |
1 |
35.8 |
36.9 |
2 |
70.2 |
72.5 |
3 |
102.2 |
105.5 |
4 |
132.8 |
136.8 |
5 |
162.0 |
166.5 |
6 |
189.5 |
194.3 |
7 |
215.2 |
221.0 |
8 |
239.4 |
245.6 |
9 |
262.1 |
269.0 |
10 |
283.9 |
291.4 |
11 |
304.5 |
313.0 |
12 |
324.5 |
332.0 |
|
Domingo Esteso
(1925年作) |
Jose Ramirez
V(1965年作) |
弦長 |
650 mm |
665 mm |
このデータを見ますと、
Domingo Esteso
(1925年作)
の #12フレット の寸法の2倍は、649 mm
Jose Ramirez
V(1965年作)
の #12フレット の寸法の2倍は、664 mm
で、両方とも、弦長は、その値より 1mm 長く設定されていますので、
■第2章 サドルは、何故、傾いているのでしょうか
その3:フレット位置での張力・ひずみ と 振動数
上昇の関係
で、ご説明したように、弦がフレットに押さえられると、張力が増加して、音程が上がってしまう・・・と言う事を防ぐために、
サドル (Saddle) の位置を変えて、弦長を長くして補正していることが窺えます。
さらに、冒頭の、Jose Ramirez
V 1960年作 の写真をクリックして、拡大写真を良く見ていただくと、サドル (Saddle) が、僅かに傾けられていて、第6弦 側の弦長が長めに設定されていることも窺えます。
ただ、フレット位置の寸法に、ちょっと不思議なところが見受けられますので、もう少し中味を良く見て見ましょう。
この二つのギターについて、#12フレット の寸法を基準にして、他のフレットの位置を、現在の平均律で計算
して見ましょう。
平均律フレット位置 は、( #12フレット の寸法の2倍 )
÷
17.817 と繰り返して計算出来ます。
便宜上、この方法を、 "Rule
of
Eighteen" と称します
|
Domingo Esteso
(1925年作) |
FRET # |
実際のフレット位置 (mm) |
平均律フレット位置 (mm) |
寸法差 (mm) |
フレット寸法短縮率 (%) |
音程(セント) (CENT) |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
35.8 |
36.42 |
-0.62 |
-1.7 |
98 |
2 |
70.2 |
70.81 |
-0.61 |
-0.9 |
198 |
3 |
102.2 |
103.26 |
-1.06 |
-1.0 |
297 |
4 |
132.8 |
133.89 |
-1.09 |
-0.8 |
397 |
5 |
162.0 |
162.80 |
-0.80 |
-0.5 |
498 |
6 |
189.5 |
190.09 |
-0.59 |
-0.3 |
598 |
7 |
215.2 |
215.85 |
-0.65 |
-0.3 |
698 |
8 |
239.4 |
240.16 |
-0.76 |
-0.3 |
797 |
9 |
262.1 |
263.10 |
-1.00 |
-0.4 |
897 |
10 |
283.9 |
284.76 |
-0.86 |
-0.3 |
997 |
11 |
304.5 |
305.20 |
-0.70 |
-0.2 |
1097 |
12 |
324.5 |
324.50 |
0 |
0 |
1200 |
|
Jose Ramirez
V(1965年作) |
FRET # |
実際のフレット位置 (mm) |
平均律フレット位置 (mm) |
寸法差 (mm) |
フレット寸法短縮率 (%) |
音程(セント) (CENT) |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
36.9 |
37.27 |
-0.37 |
-1.0 |
99 |
2 |
72.5 |
72.44 |
0.06 |
0.1 |
200 |
3 |
105.5 |
105.65 |
-0.15 |
-0.1 |
300 |
4 |
136.8 |
136.98 |
-0.18 |
-0.1 |
399 |
5 |
166.5 |
166.56 |
-0.06 |
0.0 |
500 |
6 |
194.3 |
194.48 |
-0.18 |
-0.1 |
599 |
7 |
221.0 |
220.83 |
0.17 |
0.1 |
701 |
8 |
245.6 |
245.71 |
-0.11 |
0.0 |
800 |
9 |
269.0 |
269.18 |
-0.18 |
-0.1 |
899 |
10 |
291.4 |
291.34 |
0.06 |
0.0 |
1000 |
11 |
313.0 |
312.26 |
0.74 |
0.2 |
1103 |
12 |
332.0 |
332.00 |
0.00 |
0.0 |
1200 |
(注) Jose
Ramirez V第11フレット位置データは誤記で、312.3
が正しい値ではないかと思われますが、
昭和50年7月 ( July, 1975 )
「現代ギター 7月臨時増刷 ギターの知識」 掲載の下記のデータをそのまま使いました。
Domingo Esteso
(1925年作)
Jose Ramirez
V(1965年作)
ここで、注目すべき共通点は、
何れのギターも、第1フレットの寸法が、平均律で計算
される値より、短く設定されていることです。
The distance between the nut and the
first fret are 1% to 1.7% shorter than the "Rule of
Eighteen" standard.
この辺に、名工たちの作るギターの 音律を正しくする秘密が隠されているような、予感はしませんか。