ギターボディー 振動の力学 (9)

 第9章 ギターの振動系モデル と 音の性格

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 前章 までは  ギターの 音の出でるメカニズム について調べてきました 

こちらで問題提起した、実際に弾いた音の音色を損なう・・・と言う大きな問題 ・・・

 いよいよ、 この章では その核心に迫ろうとおもいます・・・ 

 


始めに、今まで分かったことを整理しておきましょう  

ギターでは  #6  弦の開放弦  E2   82.4 Hz  (もう少し上もあるが) から、  #1  弦の#12フレット  E5   659.26 Hz  (もう少し上もあるが) の弦が弾かれる。 
弾かれた弦は、基本音の振動数で振動するが、弦自身の振動の中にも、2倍、3倍・・・と言う高次の周波数成分(倍音)が含まれている。 こちらです
ギターを構成している共鳴胴、とりわけ、サウンドボード(表板・Top) には、ギターの形・大きさなどから決まる 共振点 がある。 こちらです
 共振点 の振動数は、概ね、モード (0) 100 Hz 付近 モード (0,0) 200 Hz 付近 モード (1,0) 400 Hz 付近 で、強い共振がおこる。 こちらです
モード (0) 100 Hz 付近  と モード (1,0) 400 Hz 付近  の共振は、表板(Top) と ギター胴内の空気の ヘルムホルツ共振現象 との 相互作用 で 発生する。 こちらです
モード (0,0) 200 Hz 付近  の共振は、 表板(Top)固有 の 板の共振特性   によって発生している。 こちらです
 共振点 あるいは、その付近の振動数の弦が弾かれると、ギターからは大きな音が出る。 こちらです
弦の高次の振動数(倍音)が、 共振点 あるいは、その付近の振動数に近い場合は、倍音もギターからは大きな音として出る。 こちらです
どの音の弦を弾いても、共振点 モード (0)モード (0,0) のなど、強い共振点の振動数の音が 、僅かに、湧き出(誘発される) と言う現象が ある。 こちらです
 問題点は 共振点 モード (0,0) 200 Hz 付近  の音は(周波数成分として含まれる倍音も)、減衰が早く、 音が詰まった・・・余韻の無い音  となってしまう。 こちらです
この現象は、空気の振動音ではなく、マグネティックピックアップ 弦の振動のみを拾った場合も同様に観測される。 こちらです。

問題としている音について、もう一度確認しておきましょう  

 

この をご覧下さい。
 

 #4  弦の G#3  の音:余韻の辺りにになると、音が詰まった感じになり、1オクターブ高い音に聴こえる。

  

 #4  弦の C4  の音:余韻の部分も、芯の確りした、確かな音で鳴っている 。

 #4  弦の  G#3  の音については、 余韻部分   基本音の周波数成分  が全く消えてしまう・・・と言う現象が確認されています。 詳しくは こちらです

 #4  弦の  G#3  の音については、弦自身の振動に関しても、 余韻部分   基本音の周波数成分  が全く消えてしまう・・・と言う現象が確認されています。 こちらです

 

このような現象を引き起こす音は、程度の差は有るが、このギターの中に何箇所か 有りました。

 

それを、この の中から探し出し、グラフに表したものが、下の Acoustic Guitar (YAMAHA LS36) 周波数成分の減衰の速さ のグラフです。 これを見ると、


 G2  から  A#2  の音については、  200 Hz 付近  の  2倍音の周波数成分  が消えてしまう。

 G3  から  A#3  の音については、  200 Hz 付近  の 基本音の周波数成分  が消えてしまう・・・という状況です。

 

 200 Hz 付近  と言えば、 表板(Top)固有 の 板の共振特性   による モード (0,0) 共振点 です。

 

すなわち、

 表板(Top)固有 の 板の共振特性   によって引き起こされる モード (0,0) 共振点 では、共振周波数に合致する周波数成分が、極端に早く減衰してしまう

 

その結果、 音が詰まった・・・余韻の無い音  となってしまう・・・と言う事が確認出来ました。


 

モード (0)

付近

  モード (0,0)

付近

 モード (1,0)

付近

 


得点は、
極端に早く減衰する---16 点、  やや早く減衰する---8 点、  他の周波数成分と同じ速さで減衰、--0 点、としています。


音の波形  お聴きください


 


 振動パターンの強さ

 

 強い縞模様または全部なくなる---16 点、はっきりした縞---8 点、部分的に集まる(縞あり)---4 点、部分的な振動は見える---2 点、振動は目では見えない--1 点、

 

  モード (0)

付近

  モード (0,0)

付近

 モード (1,0)

付近

 


ギターを 振動系モデル として捉える  

ここから先は、若干、専門的な話が入ってきますが、共振点 付近で 音が詰まった・・・余韻の無い音  となってしまう現象は、

振動工学で扱う ダイナミックダンパー Dynamic Damper と言う概念を導入すると、実に良く原因を説明してくれます。

ここでは、その考え方だけを、簡単にご説明します。

 

ダイナミックダンパー と言う考え方は、ダンパーと言うのですから、振動を止めるための物ですが、この解説 のように、
振動する一つの
主振動システムに、それと共振周波数の合うもう一つの振動ダンパーシステムを付加すると、振動ダンパーシステムは振動するものの、主振動システムの振動を止めることが出来る・・・

と言うものです。 地震でビルが倒壊しないようにするため・・・などにも応用されています。

 

ギターの振動モデルに於いては、主振動システムが、弦の振動系振動ダンパーシステムが、サウンドボード・ボディの振動系 、に相当します。

えぇ・・・、サウンドボード・ボディの振動系・・・って、弦の振動を益々大きくするためのものだった筈ですよね。

 

勿論、その通りですが、ここで一つだけ限定が有ります。 ギターの弦の振動や、サウンドボード・ボディの振動には、今までの説明の中に、倍音 と言う、沢山の周波数成分が含まれています。

 

サウンドボード・ボディの振動系が、振動ダンパーシステム になってしまうのは、弦の振動の中に含まれている、沢山の周波数成分のうち、その振動数が、サウンドボード・ボディの振動系の振動数に合ってしまうものだけに作用するのです。

 

ちょっと専門的になりますが、 位相  と言う、 振動 している物体に働く力の向き ・・・との関係もありますが、 大変ややこしくなのますので、その話は省略します。

 

以上の考え方で、それを、下の絵のように描きました

 

ギターの振動系の場合、 200 Hz 付近  の 表板(Top)固有 の 板の共振特性   による モード (0,0) 共振点 では、弦の振動 サウンドボード・ボディの振動 は、この絵のようになってしまいます。

 

すなわち、弦の振動系 サウンドボードに働きかけている力  と、 サウンドボード・ボディの振動系 弦に働きかけている力  の向きが、モード (0,0) 共振点 では、 逆方向  に向いてしまうと言う現象がおきています。

 

従って、 200 Hz 付近  のモード (0,0) 共振点 、あるいは、その付近での弦の振動の周波数成分は、弦の振動 の中から消えてしまう・・・という事が、何となくお分かり頂けるとおもいます。

こちらで確認できます。


もう少し、直感的な説明・・・とすれば、

モード (0)


モード
(0,0)


モード
(1,0)

 

 200 Hz 付近  のモード (0,0) 共振点 では、ブリッジ Bridge の位置が、 振動の腹  になっていて、上下に最も激しく動いていいます。

それに対して、モード (0) 共振点 では、中間的な動きに、また、モード (1,0) 共振点 では、ブリッジ の位置は、 振動の節  になっているために、全く動いてない・・・とも言えます。

 

ですから、モード (1,0) 共振点 のような、比較的、振動数の高い音の弦を弾いた時は、弦の振動 が、ブリッジ へ伝わり、周囲のサウンドボード が、整然と振動して、綺麗な響きの音を出して呉れている・・・と考えられるのに対し

 

モード (0,0) 共振点 では、ブリッジ の位置が、 振動の腹  になっていて、上下に激しく動いている・・・となれば、弦の振動 に対しても、 何らかの影響が及んでくる ・・・と言う事は考えられるとおもいます。


 この音の性格・・・すなわち、鳴り方 は

 

弦を弾いた瞬間は、 サウンドボード・ボディの大きな振動 が始まり、瞬間的には大きな振幅 の振動になるため、瞬間的に、大きな音が響きますが、

 

 サウンドボード・ボディの振動 が 成長し、 共振 して、大きく振動を始めると、 サウンドボード・ボディの振動 弦の振動を止めてしまい、

 

その結果、 音が詰まった・・・余韻の無い音  となってしまうものと考えられます。

 

 音が詰まった・・・余韻の無い音 

 

この を、その観点でもう一度ご覧下さい。

 

 

このビデオ映像からは、 サウンドボード・ボディ 共振 により、共振点 モード (0)モード (0,0) のなど、強い共振点の振動数の音が 、僅かに、湧き出(誘発される) と言う現象も、ご覧いただけるとおもいます。

 

このような 音が詰まった・・・余韻の無い音  は、 ウルフトーン   Wolf Tone  と呼ばれて、バイオリンや、特に チェロ など、弓で弾く弦楽器が宿命的に持っている現象と同じと考えられます。

少なくとも、振動工学的 には、全く同じ理論で説明が付きます。 チェロ ウルフトーン  については、こちらで説明しております。


ウルフトーンを 生ずる音の功罪  

 大きな音を出すにも拘わらず、余韻の 音色が詰まった感じに変化する 音について調べてきました 

 

このような現象を引き起こす特定の音、 そこには、どんな メリットディメリット があるのでしょうか。

 

それを次章では見て行きましょう。


この続きは、続き(10) をご覧下さい

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ギターボディー 振動の力学 続き(10)

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Updated:2007/2/6