ギターボディー 振動の力学 (2)

 第2章 ギターの発音メカニズムと共振

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 前章での 音の強さの違い  は、このようなものでした 

1台のギターの中で、何故このような 音の強さ の違いが出るのか・・・それを、この章で探ってみましょう 

 


ギターの 発音メカニズム  こんな、当たり前の話はいらない・・・と仰らずに、お読み頂ければ幸いです。

 

ギターの音の出る仕掛け・・・これは、説明は要らないですよね。 でも、エレキギターなどの共鳴胴を持たないギターを弾いている人はご承知とおもいますが、弦の振動 だけから出ている音は、とても小さな音です。 なのに、ギターからはとても大きな音が響いています。 あなたの良いギターであれば、なお更です。 と言うことは、表板や側板・裏板からなる共鳴胴 が、弦の振動の音 増幅  してくれている・・・と考えられます。

 

弓で弾くバイオリン 音の出る仕組み でご紹介している、下の絵をご覧下さい。

 

バイオリンのような、弓で弦を擦って音を出す楽器の場合、弦の振動は弓からエネルギーを貰って、弦は振動し続けます。 更に、弓を力強く動かせば、より大きな音をだすことが出来ます。

 

でも、ギターのように、弦を弾いて音を出す楽器の場合、上の絵の ピッチカート と同じように、始めに弾いたときの音が最大で、その後はどんどん小さくなってしまう、所謂 減衰振動 なのです。  一度、弾かれた弦は、二度と他からエネルギーを貰うことはありません。

 

増幅と言うのは、正確に言うと、他からエネルギーを貰って、自分自身のエネルギーが増える・・・と言う事ですので、上で、「表板や側板・裏板からなる共鳴胴 が、弦の振動の音 増幅  してくれている・・・」と書いたのは、間違いです。

<参考事例>

エレキギターの場合は、弦の小さな振動をピックアップで検知し、それを、パワーアンプで大きくしてスピーカーを大きな音で鳴らしています。
すなわち、パワーアンプは、電気というエネルギーを使って、弦の小さな振動をスピーカーから出る大きな音に増幅しています。

 増幅  で無い・・・と言うのであれば、何で大きな音になるのでしょうか・・・


共振すると大きな音になる・・・  上で、ギターの胴のことを、表板や側板・裏板からなる共鳴胴 と書きましたが、共振 と 共鳴 は同じ意味です。

最近、地震の事をテーマにしたテレビ番組など、良くやってますよね。 地震のときに、超高層ビルの最上階などは立っていられない位大きく揺れる・・・と言うことも紹介されています。  これは、超高層ビルと言えども、ガッチリとした塊ではなく、自分自身が揺れる(振動する)性質を持っていて、その揺れ方が、地震の波長と合致した場合に、大きな揺れが現れる・・・と言う現象です。

 

こういう現象を、共振 あるいは 共鳴 と言います。  すなわち、地震の揺れの周期(振動数と考えても良い)と、超高層ビルが持っている固有の周期(振動数)が合致した時に、共振現象 が起こります。

 

 ギターの場合で考えて見ましょう 

 

ギターの弦の振動が、上の例の地震の揺れ・・・、表板や側板・裏板からなる共鳴胴 が、上の例の超高層ビル・・・と考えて下さい。

共鳴胴 が大きく揺れる(振動する)ので、ギターからは大きな音が出ることになります。

 

ここで、もう一度繰り返しますが、ギターから大きな音が出 のは、弦の振動が 増幅  されたのでは有りません。 正確には、弦の振動 と 共鳴胴 の振動の間で、エネルギーが行ったり来たり している現象なのです。

  

それなら、何故、だんだん音は小さくなってしまうの・・・それは、難しい話になりますが、振動している物体の中で、内部摩擦などによってエネルギーが熱に変わって消費されてしまうからです。 

こう言う振動が、減衰振動 なのです。

 

 音の強さ に違い があるのは、共鳴胴のせい ??? 

 

前章で、ギターを弾く時に、 全ての音を、極力同じ強さでピッキング(弾く)するように努めました。 と書きました。 それなのに、実際にギターから出た音には、大きい音 小さい音 が有りました。

 

ここで、超高層ビル の話を振り返って見て下さい。 地震の揺れの周期(振動数と考えても良い)と、超高層ビルが持っている固有の周期(振動数)が合致した時に、共振現象 が起こる・・・となっていました。

 

だとすれば、


弦の振動数 と 共鳴胴 の振動数が
合致した時 に、共振現象 が起こり、大きな音 が出る。

弦の振動数 と 共鳴胴 の振動数が合致しないと、共振現象 が起こらず、小さい音 しか出ない。
 

と言うことになるのでしょうか。

 

 ピン・ポン・・・正解です。

 

 えぇー

ギターの共鳴胴 って、全部の音を大きくしてくれるんじゃないんだ・・・
 

とガッカリしないで下さい。 小さい音に聴こえている音だって、相当頑張って大きくしてくれているのですから。


叩けば分かる 共振周波数・・・  共振するときの振動数を、共振周波数 と言います。

振動する弦ならば、その振動数 と言うのは分かりますが、共鳴胴 にも振動する振動数があるのでしょうか。

 

弦の振動数なら、チューナーを使えば簡単に精度よく計れます。 共鳴胴 の振動数・・・  どうやって計るのでしょうか。

 

この四つのサウンドを聞いてみてください。

Yamaha   AXL   GR-KIT-W   Garrison

何か、違いがありましたか。

 

違いは有ったとおもいますが、この違いのことを、ここで云々することが目的では有りません。

 

この四つのサウンドは、上のサウンドの横に書いてあるギター名をクリックして頂ければ、それぞれのギターのページに移りますが、

そのギターの、表板Top) と、裏板Back) を、小さなハンマーで叩いた時の音をレコーディングしたものなのです。

 

お聴き頂けば分かるように、何となく 音程感がある音 だと思いませんか。 少なくとも、雑音 では無いですよね。

音程感がある・・・と言うことは、振動数が明確・・・だということになります。

 

 こうやって 計りました  クリックすると、大きくご覧いただけます

ギターを柔らかな発泡ウレタンの上に置き、写真の位置にダイナミックピックアップを付け、手前に映っている小さなハンマー(フェルト付き)で、胴の幅の最も広い位置の中心部を軽く叩きました。

 

それを、こちらの 録音 機材 を使って、Adobie Audition 2.0 で 音の波形 として取り込みました。

 

こんな 音の波形 です。 この写真を見ながら、 この Yamaha を聴いて見て下さい。

 

Adobie Audition 2.0 と言う音楽編集のソフトは、大変優れたソフトで、 周波数分析 と言う機能が付いています。

音の波形 にカーソルを合わせると、そこの時点の音に含まれている音の周波数を別なウインドウに表示してくれます。

Yamaha の表板Top) と、裏板Back) を叩いた時の 音の波形 を 周波数分析 すると、下の画像のような結果が得られました。

 

 ここが重要です

周波数分析 の波形で、上に鋭く尖っている周波数 その音の振動数(周波数)が、共鳴胴が共振(共鳴)する周波数 なのです。
 

 

音程と周波数の対比

表板Top)  共振周波数は、 107 Hz   205 Hz   371 Hz   441 Hz  と計測されました。 実際は、もっと上の周波数も有りますが、省略します。

裏板Back)  共振周波数は、 97 Hz   215 Hz   280 Hz   398 Hz  と計測されました。 実際は、もっと上の周波数も有りますが、省略します。

 

 やった・・・

このギターが 大きな音 を出しそうな周波数が分かったぞっ・・・
 


実際の音の大きさ と 共振周波数 の関係を較べて見ましょう・・・

表板Top)  共振周波数は、 107 Hz---G#2-A2   205 Hz---G#3   371 Hz---F#4   441 Hz---A4  と計測されました。

 

裏板Back)  共振周波数は、 97 Hz---G2   215 Hz---G#3-A3   280 Hz---C#4   398 Hz---G4  と計測されました。

 

この計測結果と、下の 表板振動の強さ  や 音の波形 の大きさを較べて見て下さい。 

 

 完璧で・・・す

表板(Top) や 裏板(Back)  を叩いた時にでる音の周波数分析から得られたピークの振動数と、

実際にギターから出ている 大きな音 の振動数は、ほぼ一致していることが分かりました。

 
 このような探索の方法を、タップトーン分析 と呼んでいます。

これは、良いギターを見分けるヒントになるかも・・・

 

この章の話も・・・当たり前のことだったでしょうか。

 でも、大きい音 なのに、音に余韻がなく、「ぼそっ」 と終わってしまう G#3 のような音があるのでしょうか・・・ 

まだまだ疑問は残っています・・・よね。


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ギターボディー 振動の力学 続き(3)

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Updated:2007/1/25