ギターイントネーションを驚異的 に改善

ギターの力学

新訂

クラシックギター編


Patented   (特許第4383272)

イントネーション:

楽器の個々のピッチの正確さ


究極の音律を提供する
 

This is the


for your Classic Guitar



 

red.gif (61 バイト)


クラシックギターのサドル (ナイロン弦使用の場合)

アコースティックギターのサドル

スチール弦を使うアコースティックギターのサドルは、傾いて付いています が、(ただし、これだけでは正しい音律を得るには不十分ですが)

ナイロン弦を使用するクラシックギターのサドル は、まっすぐに付いています。 何故でしょうか。

このページをお読みいただいたら、

なぜ・・・そうなのか。 音律は、どうすれば改善できるか・・・

ご納得いただけると思います

red.gif (61 バイト)

クラシックギターを探る・・・

始めに、サンプルとして、一台のクラシックギターをご紹介します。 作りは大変確かに作られているギターです。 

下左のギターの写真は、 Minehara Super Tune System  適応済みです。


弦長: 650mm


サドル 調整 は 第3弦のみ

Minehara Super Tune System  適応前

(注)データのないフレットは、測定を省略してあります。

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フレットの位置と弦長

ギターのフレット位置の割り出し方法は、アコースティックギターと同じですので、詳しくは、こちらをご覧下さい。

1オクターブを均等な12の半音に分けた音律 これを、平均律 と言います。

第1フレットを押さえた場合は、開放弦の音の半音上の音、 次に第2フレットを押さえた場合は、第1フレットを押さえた時の音の、さらに半音上の音・・・

この動作を12回やって、第12フレットを押さえた時の音は、開放弦の音の1オクターブ上の音・・・これは、振動数が2倍になります。

第1フレットを押さえた時の音は、開放弦の音の振動数に対して、1.0594631 高い振動数の音 です。弦の音の振動数は、弦の長さに反比例する・・・とすれば、第1フレットの位置で、弦の長さは開放弦の長さに対して、1/1.0594631 = 0.9438743 になっていれば良い・・・と言うことになります。

基準とする開放弦の長さ(基準スケール長)が 650mm の場合、第1フレットでの弦の振動する長さは、650×0.9438743 = 613.52 mm

実際にギターを製作するときに、フレット位置を求めるには、基準とする開放弦の長さ(基準スケール長)を、 Fret Factor = 1.0594631 / 0.0594631 = 17.817152 と言う値で割ると、第1フレットの位置が求まります。 基準スケール長 648mm の場合、第1フレットは、ナットから 650÷17.817152 = 36.48 mm

第2フレットの位置は、第1フレットから (650-36.48)÷17.817152 = 34.43 mm となります。 この計算を繰り返します。
この計算方法は、
Rule of Eighteen  (18 のルール) と呼ばれています。


このギターは 基準スケール長 650mm で設計されていますので、弦長 (ナットからサドルまで) は、ナットから第12フレットまでの寸法の2倍の、 650mm  より、僅かに長く設定されるのが通常です。

このギターの場合、サドルの位置は、下記のような値に設定されています。

Fret #

基準スケール長 650mm
ナットからフレット位置までの寸法 (mm)
平均律 の計算値

実際のフレット位置 (mm)
実測値

6弦
E

5弦
A

4弦
D

3弦
G

2弦
B

1弦
E

0

0

0


サドルは、第6弦側の弦長が長くなるように、僅かに傾いています。

1

36.480

36.5

2

70.915

70.8

3

103.419

103.6

4

134.094

134.2

5

163.050

163.2

6

190.379

190.5

7

216.178

216.4

8

240.525

240.8

9

263.507

263.8

10

285.200

285.4

11

305.675

305.9

12

325.000

325.0

 

ナットからサドルまでの弦長

651.5

651.3

651.2

652.0

651.0

650.9

実際のフレット位置は、平均律 の計算値に大変精度良く作られています。

サドルの位置は、3弦  G のみ、弦長が特別に長くなるように、サドルの部分で弦長を補正して、正確なピッチに近づける工夫がなされています。

通常、ナイロン弦のクラシックギター は、一本のサドルを使い、弦毎の調整はなされていませんので、このギターの場合は、一歩前進・・・と思います。

(注) ただし、この補正は、「弦が太いため、実質の弦長が短くなり、音程が高くなる」 ためでは有りません。
弦を押さえると、弦が伸ばされて、張力が増加し、音程が高くなる」 のを抑制するための必要策です。
これは、大変重要なポイントです。
このページを最後までお読み頂くと、ご理解いただけると思います。

クラシックギター用ナイロン弦の性質

クラシック ギターの弦は、上の図のように、ナットとサドルの間に、張力を架けて張られています。 弦をフレットに押さえると、当然、張力は変化します。 それが、音程の狂い  の原因となります。 ナイロン弦の性質を知ること・・・これが、音律を改善するための秘策です。


今回は、下記の2種類の弦について調べました。


YAMAHA GRAND CONCERT STRING


D'Addario Pro-Arte EJ44 Extra Hard Tension

 

YAMAHA Grand Concert String

D'Addario Pro-Arte EJ44 Extra Hard Tension

String

ゲージ
(in)

芯線

弦張力

String

ゲージ
(in)

芯線

弦張力

#1

.028

.028 in
(モノフィラメント)

#1

.0290

.0290 in
(モノフィラメント)

#2

.032

.032 in
(モノフィラメント)

#2

.0333

.0333 in
(モノフィラメント)

#3

.040

.040 in
(モノフィラメント)

#3

.0416

.0416 in
(モノフィラメント)

#4

.028

20μm ×270本
(フロス)

#4

.030

20μm ×380本
(フロス)

#5

.035

20μm ×270本
(フロス)

#5

.036

20μm ×270本
(フロス)

#6

.043

20μm ×270本
(フロス)

#6

.045

20μm ×270本
(フロス)

(注) 上に示したデータは、メーカーが公表しているものでは有りません。工房ミネハラ が参考値として、 計算、あるいは実測した値です。 弦張力・応力 などは、計算によって求めてあります。


クラシックギターのナイロン弦は、2種類の弦が使われています。

その1


クラシックギター ナイロン第6弦

上の写真は、クラシックギターの第6弦の端の部分をほどいた物です。
極 細い、
ナイロンフロス floss (綿毛) と言う繊維 (フィラメント) を撚って、その上に、銀メッキした銅線を巻いた弦です。

ナイロン弦のクラシックギター では、通常、第4、5、6弦 に、このような構造の弦が使われています。

皆さん・・・、弦1本に、何本の繊維 (フィラメント) が使われているか・・・、数えたことはありますか??? 工房ミネハラ は、暇に任せて、数えて見ました。 その結果は、 上の表のような本数した。

また、フロスの直径 20ミクロン (1ミクロンは、1/1000 mm) は、極細繊維のため、多少バラつきが測定されましたが、平均値としてこの値を使用しました。フロスの本数は、四捨五入した値です。

ご参考までに: 私の髪の毛の太さは、70ミクロンでした。 フロスの直径 20ミクロン は、髪の毛の1/4 の太さです。


その2

通常、第1、2、3弦 に使われている、モノフィラメント と言って、1本のナイロン弦 です。


 ひずみ-音程 感度  は、弦が押さえつけられた時に伸ばされる量・・・これを ひずみ と言いますが、
それによって、どれだけ
音程が上がって 、狂ってしまうか・・・を、第1弦を基準にして表したものです。 図中の数字は、弦番号を示しています。
もし、第1弦から、第6弦までの弦高が同じ・・・と仮定した場合、
第3弦の音程の上がり方 (
狂い) は、第1弦の音程の 上がり方 (狂い) より、約1.8  大きい・・・と言うこと を、このデータは示しています。

逆に、第4,5,6弦の音程の上がり方 (狂い) は、第1弦の音程の 上がり方 (狂い) より小さく、狂いは少ない と言うことです。

詳しくは、こちらで解説しています。


上の図で、一番際立つ特徴は、弦張力・応力 です。

ナイロンフロス floss (綿毛) で作られている弦は、応力 100 Kg/mm*mm を超えても、切れない・・・これは、驚異的な材料です。

プラスチックを極細繊維にすると、このような強度を持つ弦が作れるのです。
弦楽器の基本・・・縦繊維状の腸で作られたガット弦の発想でしょうか?

このような弦は、モノフィラメント の、1本のナイロン弦では、到底、実現出来る強さではありません。

そこに、大きな特徴があります。

 ひずみ-音程 感度  の図をご覧下さい。
弦が押さえつけられた時に伸ばされる量・・・
ひずみ に対する感度は、モノフィラメント の弦より小さく、音程の狂いが少ない・・・と言うことを示しています。

音程の狂い  最大の問題は、
0.8−1mm程度の太い、モノフィラメント の弦に有ります。
弦張力・応力 は、比較的、小さいのに・・・何故・・・???

実は、
弦張力・応力 が小さい弦の方が、
弦が押さえつけられた時に伸ばされる量・・・
ひずみ に対する 音程の狂い は大きいのです。


それでは、その訳を簡単に考えて見ましょう。

弦をフレットに押さえた時の、音程の狂い  を計算で求める方法は、アコースティックギターを例として、こちらで詳しくご紹介しています。

通常のチューニングで調弦したときに対して、それより 半音低い 或いは、半音高い音 に弦の張力を変えると、弦はどれだけ伸びる量が変わるか・・・と言う量を 半音ひずみ Δεs と 定義しました。

下の図は、ナイロン弦の半音ひずみ Δεs を、模式的に示したものです。

ナイロン・・・これは、プラスチック 材料ですが、 みなさん、こんなことはお気付きと思います。

(1) 新しい弦をギターに張る時、糸巻きの芯に弦を巻きつけた後、糸巻きを 何回も・・・何回も・・・巻かないと、音が上がってくれない・・・手がくたびれてしまいます・・・

(2) 更に、音を合わせたのに、直ぐに下がってしまい、またチューニングし直さなければならない・・・一週間・一ヶ月経っても、まだ、音が下がってしまう・・・

(1) の話が、上の図の意味していることです。 ちなみに、(2) の話は、弦が時間の経過とともに伸びてしまう、クリープ と言う現象ですが、ここでは、省略します。

上の図は、弦を張った時、その張力(応力):縦軸 と 弦の伸び(ひずみ):横軸 の関係を示しています。


A点 では、弦の張力(応力)は小さいところで使用しています。 このような状態では、半音ひずみ ΔεsA が小さな量でも、弦の音程は半音上がります。

一方、B点 では、弦の張力(応力)は大きなところで使用しています。 このような状態では、半音ひずみ ΔεsB は相当大きな量にしないと、弦の音程は半音上がりません。

B点 は、糸巻きを 何回も・・・何回も・・・グルグル巻いたような状態です。

ここで、思い出してください。 新しいナイロン弦をギターに張る時、第3弦と、第6弦では、どっちが、何回も・・・何回も・・・グルグル巻かないと、ちゃんとした音にチューニング出来ませんか。 多分、普通は、第6弦 の方だったと思います。

そうです。 上でご紹介した、ナイロンフロス floss (綿毛) で作られている、第4,5,6 弦は、応力 100 Kg/mm*mmに近い状態で使われていますので、B点 のような状態で使われています。 簡単に言えば、伸び切った状態で使われている・・・といっても良いでしょう。

それに対して、モノフィラメント の、第1,2,3 弦は、応力 10-20 Kg/mm*mm 程度で使われていますので、A点 のような状態で使われています。

直感的に分かることは、伸び切った状態で使われている弦 これは、あとちょっと伸びたからと言って、弦の張力が、それ程大きく変わる・・・とは、思われません。


お分かり頂けましたでしょうか。
ナイロンフロス floss (綿毛) で作られている、第4,5,6 弦と、モノフィラメント の、第1,2,3 弦は、弦の特性が全く違っていたのです。

ナイロンフロス floss (綿毛) で作られている弦は、弦が押さえつけられた時に伸ばされる量・・・ひずみ に対する感度は、モノフィラメント の弦より小さく、音程の狂いが少ない・・・と言うことを示しています。

そのため、このサドルの場合のように、ナイロンフロス floss (綿毛) で作られている、第4,5,6 弦は、低音弦であるにも拘わらず、アコースティックギターの低音弦のように、弦長を長く補正する必要が無いため、一本のサドルでも何とか使用できているのです。

red.gif (61 バイト)

クラシックギター弦(ナイロン弦)の 性質 がわかりましたので、

弦をフレットに押さえると、音が高く、狂ってしまう・・・と言う 現象を、計算で確認してみましょう。

影響するファクターは

弦をフレットに押さえる・・・・・単純な動作ですが、音の高さに影響を及ぼすファクターには、何があるのでしょうか・・・

フレットの位置がずれている、フレットの高さがずれている など・・・これで、音が狂うのは当たり前ですので、計算からは除外。

弦をフレットに押さえるのに、大きく押し込む必要がある。 弦の高さ(弦高)が高い・・・これは、確実に影響しそうです。

フレットの真ん中辺・・・すなわち、第12フレット付近と、第1フレット、例えば、F コードを押さえる時では、押さえるのに必要な力が違う・・・フレットのポジションも関係ありそうです。

6本ある弦でも、柔らかく押せる弦と、張りが強くて大きな力が必要な弦がある・・・弦の 構造や太さ(ゲージ)も影響しそうです。

ネックが弱く、押さえたポジションによっては、ネックに僅かな反り(変形)が発生する・・・ひ弱なギターに、Heavy Gauge のような、張りの強い弦を張った場合は起こりえます。

ギターの力学

解析では、最も影響があると考えられる、下記のファクターについて、徹底的に調べて見ました。

フレットのポジション
弦の高さ(弦高)
弦の 構造と太さ(ゲージ)

 

弦をフレットに押さえると、この図のように弦は伸ばされます。

上の図のように弦が張ってあるとして、 もともと、l の長さに、張力 S で張られていた弦が、 上の図のように、Δl だけ伸ばされた場合を考えます。

弦がΔl だけ伸ばされると、弦には、ΔS だけ張力が増え

そのため、弦の振動数  が高くなります。

この計算方法の詳細は、こちらで解説していますので、ここでは、計算結果のみご紹介します。


弦高

弦をフレットに押さえるのですから、弦高を予めキチット決めておく必要があります。

通常は、第1フレット部での弦の高さ Gap 1 は、ナットの溝の深さで調節し、第12フレット部での弦の高さ Gap 12 は、サドルの高さで調節します。

ここでは、弦高 が次の表の値に調節されたギターとします。

#

Note

第1フレット部での弦の高さ Gap 1 (mm)

第12フレット部での弦の高さ Gap 12 (mm)

1

 E

0.9

3.2

2

 B

1.0

3.4

3

 G

1.2

3.6

4

 D

1.0

3.8

5

 A

1.0

4.0

6

 E

1.0

4.2

 


フレットを押さえた時の、弦の Δε (ひずみ) の値

比較のため、 スチール弦 アコースティックギター も一緒に載せました。

ナイロン弦 クラシックギター

スチール弦 アコースティックギター

ナイロン弦のクラシックギターは、弦高が大きいので、
Δε (ひずみ) の値は結構大きなものです。


Δε (ひずみ) の値 と、Ke  の値が分かれば、フレットを実際に押さえた時、音の振動数がどの程度上がってしまうか・・・すなわち、狂ってしまうか・・・が凡そ計算で求められ ます。

こちらでご紹介しています。

Ke  の値は、通常のチューニングで調弦したときに対して、それより 半音低い 或いは、半音高い音 に弦の張力を変えると、弦はどれだけ伸びる量が変わるか・・・と言う量を 半音ひずみ Δεs から求めています。 こちらで詳しくご紹介しています。

Ke = ( 1.0594631×1.0594631- 1 ) ÷ Δεs

YAMAHA Grand Concert String   の値、 Ke の値は、下記のように求まりました。

#

Note

弦の振動数
 (Hz)

弦のゲージ
(inch)

弦の外径
(mm)

芯線

弦の張力
 (Kg)

弦の応力
 (Kg/sq-mm)

半音ひずみ Δεs

Ke

R

 1

E

329.6

モノフィラメント

 .028

0.71

.028 in

7.9

21

0.0022

56

1.00

 2

B

246.9

モノフィラメント

 .032

0.81

.032 in

5.4

11

0.0019

64

1.16

 3

G

196.0

モノフィラメント

 .040

1.02

.040 in

5.3

7

0.0012

102

1.83

 4

D

146.8

ナイロンフロス

 .028

0.71

20μm ×270本

6.9

81

0.0026

47

0.85

 5

A

110.0

ナイロンフロス

 .035

0.89

20μm ×270本

6.5

78

0.0026

47

0.85

 6

E

82.4

ナイロンフロス

 .043

1.09

20μm ×270本

7.0

82

0.0026

47

0.85

(注) モノフィラメント 弦は、引っ張られた状態で、3-4% 程度、直径が細くなります。 弦の応力は、細くなった線径で計算しています。

 

第1弦の Ke の値を 1 とした場合の、他の弦の Ke の値の比率を、下のように定義して、R:ひずみ−音程感度 をグラフにしました。

Rひずみ−音程感度


図中の数字は、弦番号を示しています。

 

ここから分かることは、例えば、仮に、6本の弦の弦高 を全て同じ様にしたとしても、第 3弦 は、第1弦に比べ、 1.8 音が上がってしまう・・・と言うことです。

一方、第4,5,6弦は、第1弦に比べ弦高も高 いのですが、第1弦に比べると、音が上がってしまう割合は小さい・・・と言うことになります。

ポイント

フレットを押さえた場合の音程の狂いは、

(1)弦高によって決まる、弦の Δε (ひずみ) の値と

(2)弦の太さ、すなわち、弦のゲージと張力 からきまる、ひずみ当たりの振動数上昇係数 Ke 

  の、2つの要因によってきまる。


 

弦をフレットに押さえた時、どれくらい音が高くなってしまうか・・・実際の音程の狂い を計算してみました。

計算方法の詳細は、各章で詳しく解説していますので、ここでは、その結果のみ示します。

比較のため、 スチール弦 アコースティックギター も一緒に載せました。
 

ナイロン弦 クラシックギター

スチール弦 アコースティックギター

サドル無補正状態のフレットと音程の狂い

サドル無補正状態のフレットと音程の狂い

今までに述べてきたように、ナイロン弦のクラシックギター は、第3弦の 音程の狂い が一番大きい事が、この計算結果からも分かりました。

このように、ギターの音律 は、使用する弦によって、全く違った性格をもっていることが分かりました。

じゃー、実際のギターはどうなっているでしょうか ???・・・


ナイロン弦使用のクラシックギターは、真っ直ぐな1本のサドル
が使われていますが、上の、音程の狂いのグラフ で、 どの弦も、第12フレット が一番音程が上がってしまう・・・

と言う現象を改善するために、弦長を僅かに長くする位置にサドル が設けられています。

サドル の位置を、当初、計算に使った、基準スケール長 より、ΔL だけ、長い位置に変え 、 そうすると、第12フレット を押さえた時の弦の長さは、ΔL だけ長くなり、音は低くなるからです。

 

サドルポジションの補正

 

上の状態のギターを、下記の サドル位置の補正 を行って、少なくとも、第12フレット を押さえた時、音程が上がり過ぎを、ゼロ にする 理想的サドル位置の補正量  ΔL (mm) を、試しに計算でもとめてみましょう。

理想的サドル位置の補正量  ΔL (mm) は、下記の値となります。

#

Note

弦の振動数  単位:Hz

理想的サドル位置の補正量 ΔL (mm)

実際のサドル補正量の例 (mm)

サドル補正の不足量 (mm)

 1

E

329.6

1.6

0.9

0.6

 2

B

246.9

2.1

1.0

1.1

 3

G

196.0

3.5

2.0

1.5

 4

D

146.8

1.9

1.2

0.7

 5

A

110.0

2.1

1.3

0.8

 6

E

82.4

2.4

1.5

0.9

 

理想的サドル位置の補正量の試算結果


実際のサドル補正の例

上の写真の実際のサドルの場合、 第1弦の弦長を、基準スケール長  の、650mm より、約1mm。 第6弦の弦長を、基準スケール長  の、650mm より、約1.5mm 長くする位置に設定されていました。

しかし、サドルの厚みは、2.4mm しかなく、 全ての弦に対して、上の、理想的サドル位置の補正量 ΔL (mm) の値にサドルの位置を設定することが不可能なのです。
第3弦では、理想的な値より、1.5mm も、補正量が不足していますので、
音程の狂い は、依然として大きく残ってしまっています。

ポイント

ナイロン弦のクラシックギター の、一本のサドルでは、理想的サドル位置の補正 が完全には出来ず、音程の狂い は、依然として残ってしまう。

 


 

サドル補正後での音程の狂いは、どの程度あるのでしょうか・・・

ここでは、計算と、実測結果のみ示します。

理想的サドル補正後のフレットと音程の狂い (計算値)

実際のサドル補正状態のフレットと音程の狂い (実測値)


(注)データのないフレットは、測定を省略してあります。

これは、一目瞭然です。

(1) 理想的サドル補正 が出来れば、第12フレット の音程の狂いは、全く無くなるはず・・・。

(2) でも、実際は、理想的サドル補正 が出来ていないため、第12フレット側 で、音程の狂い は、依然として大きく残ってしまっている。

(3) もし、理想的サドル補正 が出来たとしても、ローポジションになるにつれて、狂いが大きくなる。 
   特に、第1フレットは、無視できないほどの狂いが残ってしまう。

 

ポイント

弦高調整 や サドル調整 (コンペンセイテッドサドル)は、ギターの正確なイントネーションを 確保するうえで、最低限必要。

ただし、それだけでは、満足な状態は望めない。

通常のクラシックギターは、ここまで しか調整されていません。

サドルでの弦長補正 も、巾  2.4mm 程度のサドルの上面を削って調節しているに過ぎませんので、第12フレットやその近辺の音程を完璧に合わせる事は、大変難しい話です。
従って、上のグラフの、
サドル補正後の音程の狂い よりも、実際はもっと大きな狂いがででしまうのが普通です。

程度の良いギターの場合でも、第1弦で、 5-10 CENT、 第 3弦では、 10-20 CENT 程度の音程の狂いが出てしまうものも普通にあります。

これでは、思うような良い演奏は出来ないと思います。

ナイロン弦を使用するクラシックギターは、音程の狂いは少ない・・・と考えられていましたが、実際に検討して見ますと、まだまだ、改善すべきは多々あるようです。

red.gif (61 バイト)

これを解決するのが、


Patented   (特許第4383272)


クラシックギターの不思議 では、Domingo Esteso (1925年作) や Jose Ramirez V(1965年作) が、

何れのギターも、第1フレットの寸法 を、平均律で計算 される値より、短く設定 していることを説明しました。

The distance between the nut and the first fret are 1% to 1.7% shorter than the "Rule of Eighteen" standard.

この辺が、名工たちが作ったギターの 音律を正しくする秘密 では無いか??・・・といいましたが、

それは一理あるようです。


第1フレットの寸法が、平均律で計算 される値より、短く設定されている・・・と言うのは、どういうことでしょうか。

この写真をご覧下さい。
従来のナットの直ぐそばに、第1フレットまでの寸法を短縮させる、
ストリングピロー と言うパーツをおきます。

下の図をご覧下さい。 チューンナット は、ストリングピロー と同じものです。

 

 

これは、 平均律で計算されるフレットに おいて、ナットと第1フレットの寸法 だけを、ΔN だけ、短くしてしまおう・・・という 考えです。

これに気付いた先人の知恵には驚きます。  クラシックギターの不思議 Domingo Esteso (1925年作) や Jose Ramirez V(1965年作)

 


Patented   (特許第4383272)

では、 ストリングピロー と言うパーツが、 その働きをします。

平均律で計算されるフレット・・・と言うのは 、冒頭に説明した、Rule of Eighteen  (18 のルール) で Fret Factor = 17.817 を使って計算する ものです。


 

ナットと第1フレットの寸法を、ΔN だけ、短くすると、どういうことになるのでしょうか。

 

簡単に分かることは、

第1フレットを押さえた場合、開放弦の音に対して、半音上がる割合が小さくなる・・・と言うことです。

とすれば、第1フレットの音が、上がり過ぎてしまう事は無くなるはずです。

第1フレットの音が正しければ、次の、    第2フレットの音も、正しくなるだろう・・・と考えられます。

 

第12フレットの、オクターブ調整 は、今までとおなじように、サドル位置を補正してやれば、正しく、第12フレットの音程は調整できます。

 

これが出来れば、ローポジションも、ハイポジションも、音程の狂いの無いギターになるはずだ・・・と考えました。

どうでしょうか???

これで、こんなギターにな る筈です。

本当に音程の狂い が小さくなるか・・・ストリングピロー 使用時の、音程の狂い 計算で求めてみます

計算方法は、アコースティックギターの場合と、全く同様ですので、詳細は、ここでは省略して、その結果のみをご紹介します。

アコースティックギターの場合の計算方法は、こちらをご覧下さい。

ストリングピロー位置  ΔN (mm) と サドル位置の補正量 ΔL (mm) の関係

#

Note

弦の振動数
 (Hz)

弦のゲージ
(inch)

弦の外径
(mm)

芯線

 Minehara Super Tune System

(参考)
サドルのみの補正の場合
理想的サドル位置の補正量

ΔL 
(mm)
 

ストリングピロー位置
ΔN (mm) (計算値)

サドル位置の補正量
ΔL (mm)
 (計算値)

 1

E

329.6

モノフィラメント

 .028

0.71

.028 in

0.8

0.8

1.6

 2

B

246.9

モノフィラメント

 .032

0.81

.032 in

1.0

1.1

2.1

 3

G

196.0

モノフィラメント

 .040

1.02

.040 in

1.8

1.8

3.5

 4

D

146.8

ナイロンフロス

 .028

0.71

20μm ×270本

0.9

1.0

1.9

 5

A

110.0

ナイロンフロス

 .035

0.89

20μm ×270本

1.0

1.1

2.1

 6

E

82.4

ナイロンフロス

 .043

1.09

20μm ×270本

1.1

1.3

2.4

ストリングピロー での補正量、ΔN は、矢張り、第3弦が一番大きく必要なことがわかりました。

サドル の補正寸法 は、ストリングピロー を使用しなかったときの、理想的サドル位置の補正量 ΔL より小さな値で良いことがわかりました。 
実際に、
0.8-1.3mm の寸法で有れば、今まで付いていたサドルの上面を僅か削ることで調整可能でした。 下の写真をご覧下さい。

このギターの場合、  ストリングピロー  で、ナットから第1フレットまでの寸法の短縮率 の適正値は、最終的に下記のようなものになりました。

String

ストリングピロー 補正量、ΔN (mm)  

ナットから第1フレット寸法の短縮率

#1

1.0

2.7%

#2

1.0

2.7%

#3

1.7

4.6%

#4

0.9

2.5%

#5

1.0

2.7%

#6

0.9

2.5%

ストリングピロー 補正量、ΔN (mm)  は、上の表の計算値と殆ど一致しています。


その結果は、どのようになったでしょうか。

ストリングピロー位置 ΔN (mm) と、 サドル位置の補正量  ΔL (mm) を最適になるように設定して、全ての弦について計算した 、音程の狂い と 、

実際のギターで試作した結果を、下記に示します。

のデータをご覧下さい ストリングピロー使用後 の 音程の狂い は、こんなに小さくなります。  (グラフの縦軸スケールが違いますので、ご注意下さい)

 Minehara Super Tune System  使用時

ストリングピロー使用後 の 音程の狂い  (計算値)

・・・これなら、全く音程の狂いは気にならないと思います。

ストリングピロー使用後 の 実際のギターの 音程の狂い (実測値)


(注)データのないフレットは、測定を省略してあります。


弦のゲージと補正量の関係

ストリングピロー位置  ΔN (mm) と サドル位置の補正量 ΔL (mm) の関係

#

Note

弦の振動数
 (Hz)

弦のゲージ
(inch)

弦の外径
(mm)

芯線

 Minehara Super Tune System

(参考)
サドルのみの補正の場合
理想的サドル位置の補正量

ΔL
(mm)
 

ストリングピロー位置
ΔN (mm)

サドル位置の補正量
ΔL (mm)

 1

E

329.6

モノフィラメント

 .028

0.71

.028 in

0.8

0.8

1.6

 2

B

246.9

モノフィラメント

 .032

0.81

.032 in

1.0

1.1

2.1

 3

G

196.0

モノフィラメント

 .040

1.02

.040 in

1.8

1.8

3.5

 4

D

146.8

ナイロンフロス

 .028

0.71

20μm ×270本

0.9

1.0

1.9

 5

A

110.0

ナイロンフロス

 .035

0.89

20μm ×270本

1.0

1.1

2.1

 6

E

82.4

ナイロンフロス

 .043

1.09

20μm ×270本

1.1

1.3

2.4

 

サドルストリングピロー の補正寸法  は、下記のようになりました。

 

実際のギターにセットアップするには、下図のように行います。

サドル位置の補正量 ΔL (mm) が、今まで付いていたサドルの厚みで足りない場合は、上の図のような、上部の厚みを大きくした補正用 サドル を使用します。こちらをご覧下さい。
このようなパーツを使用することにより、
ギター本体には一切加工することなく、完璧な音律補正を行うことが出来ます。 こちらをご覧下さい。


ストリングピロー を使うことで、音程の狂いは、識別不可能な位い、小さくなりました。

一説には、人の耳が、識別できる音程の違いは、6 CENT程度だ・・・とする見解も有りますが、 (注) 2 CENT と言う説も有ります。

そうだとすれば、今回、ストリングピロー を使うことで、音程の狂い は、上のグラフのように、最大の狂いを示す、第 3弦の第1フレットでも、2 CENT 程度です。
もう、狂いは、全く識別出来ない程度の小さなものになったことを、このデータは示しています。


ポイント

Minehara Super Tune System  は、

ギターと言うフレット楽器の持つ本質的な弱点である、イントネーション の狂い を、ギターの弦高、使用弦のゲージに対応して、ミニマム に設定できる能力を持っている。


今回ご紹介した、ストリングピロー は、ナイロン弦を使用するクラシックギター  に於いても、 音程の狂い を、ほぼ完璧になくしてくれる、優れものであることは間違いないと考えております。

仮説による計算によっても、裏づけが取れましたので、皆様にご紹介しました。

 

工房ミネハラ  では、ストリングピロー と 補正用 サドルを使ったギターセットアップサービスを、

 Minehara Super Tune System  として、開始致しました。

こちらをご覧下さい。

貴方のギターは、 Minehara Super Tune System  で、こんなギターに変身します


Patented  
(特許第4383272)

 ミネハラ スーパーチューンシステム


始めからギターを作るなら、ストリングピロー を使ないで、 MTS Guitar  を作ることが出来ます。

このギターは、

 CLASSIC GUITAR KIT  クラシックギターキットからお作りいただけます。

こちらをご覧下さい。


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工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2009/10/6

First Updated:2004/4/11