Domingo Esteso
1930

Jose Ramirez V
1960
 ギターの力学

コーヒーブレークタイム

クラシックギターの音律を正しくする秘密


前回の、コーヒーブレークタイム にて、 ご紹介した、 Domingo Esteso (1925年作) のフレット位置データに関して、ちょっと別な角度から調べて見ましたら、大変面白い結果が得られました。

 工房ミネハラ では、このギターを再現してみました 


 (A)

下図の(A) が、実際のギターです。

実際のフレット位置 と、実際の弦長 は、下図の   のようになっています。

Domingo Esteso (1925年作)
FRET # 実際のフレット位置 (mm)
0 0
1 35.8
2 70.2
3 102.2
4 132.8
5 162.0
6 189.5
7 215.2
8 239.4
9 262.1
10 283.9
11 304.5
12 324.5
弦長 650.0

 (B)

(A) のギターの、第1フレットからナットまでの寸法が、 ΔN (mm) だけ長い、(B) のようなギターを仮定してみます。
(注)ナットから全てのフレットまでの寸法も、
ΔN (mm) だけ長くなります。

(B) のギターは、ナットから #12フレットまでの寸法の 2倍の長さを、基準スケール長として、

Rule of Eighteen  (18 のルール) に於いて、Fret Factor = 17.817 を使って計算 される、平均律フレット位置 で作られているものとします。

ΔN = 0.7 mm  として、 Scale Length 基準スケール長 ( 0-#12 ) = ( 324.5 + 0.7 ) * 2 = 325.20 * 2 = 650.40 mm の平均律フレット位置は、下記となります。

FRET # (B)
基準スケール長 650.40mm
平均律フレット位置(mm)
0 0
1 36.50
2 70.96
3 103.48
4 134.18
5 163.15
6 190.50
7 216.31
8 240.67
9 263.67
10 285.38
11 305.86
12 325.20


 (C)

次に、(B) のギターの、ナットから #1フレットまでの寸法を、ΔN = 0.7 mm  だけ、短縮した (C) のギターのフレット位置を求めます。

これは、上の、(B) のギターのフレット位置寸法が全て、ΔN = 0.7 mm  だけ、短くなった物です。

FRET # (C)
(B) のフレット位置から、
ΔN = 0.7 mm を引いた値
0 0
1 35.80
2 70.26
3 102.78
4 133.48
5 162.45
6 189.80
7 215.61
8 239.97
9 262.97
10 284.68
11 305.16
12 324.50

(A) のギターのフレット位置と、(C) のギターのフレット位置を比較して見ます。

寸法差 (mm) 、寸法差率 (%) は、下記となります。 寸法差率 (%) を音程 (CENT) に換算します。

FRET # Domingo Esteso (1925年作)
(A)
実際のフレット位置 (mm)
(C)
(B) のフレット位置から、
ΔN = 0.7 mm を引いた値
(A)  - (B)
寸法差 (mm)
寸法差率 (%) 音程
(CENT)
0 0 0      
1 35.8 35.80 0 0 100
2 70.2 70.26 -0.06 -0.1 200
3 102.2 102.78 -0.58 -0.6 298
4 132.8 133.48 -0.68 -0.5 398
5 162.0 162.45 -0.45 -0.3 499
6 189.5 189.80 -0.30 -0.2 599
7 215.2 215.61 -0.41 -0.2 699
8 239.4 239.97 -0.57 -0.2 798
9 262.1 262.97 -0.87 -0.3 897
10 283.9 284.68 -0.78 -0.3 997
11 304.5 305.16 -0.66 -0.2 1,098
12 324.5 324.50 0 0 1,200

 (A) (C) の音程の差は、大きくても 3 CENT 程度であり、この二つのギターは、同じものと考えて良い。


この計算から分かったことは、

  • (A) のギターは、(C) のギターと同じと考えて良い。

  • (A) のギターは、Rule of Eighteen  (18 のルール) に於いて、Fret Factor = 17.817 を使って計算 された、ナットから第1フレットの位置までの寸法を、 ΔN = 0.7 mm  だけ短縮している。 その  短縮率  は、平均律の第1フレット寸法 36.50 mm に対して、 1.9 %  である。

  • (A) のギターの 実際の弦長  は  650 mm  である。 この寸法は、ナットから第12フレットまでの寸法、 324.5 mm の2倍の値、649.0 mm より、1 mm 長く設定されている。 従って、(A) のギターは、サドル位置補正 が、ΔL = 1.0 mm  行われていると考えられる。

ΔN = 0.7 mm  だけ短縮・・・と言うことは、


での、 ストリングピロー による、ナットから第1フレットの位置までの寸法短縮 ΔN= 0.7 mm に相当します。



では、

 ストリングピロー ΔN (mm) と、サドル位置の補正  ΔL (mm) の両方で補正を行うと、 フレット位置での音程の狂いは、極端に小さく出来ることを説明しました。

今回、昭和50年7月 ( July, 1975 ) に、現代ギター社から出版された、「現代ギター 7月臨時増刷 ギターの知識」に、ギターのフレット位置データが掲載されていましたので、

Domingo Esteso (1925年作)

Jose Ramirez V(1965年作)

Domingo Esteso (1925年作) と Jose Ramirez V(1965年作) のデータを、この考え方で解析してみましたら、全く同じ理屈であることが分かりました。

これは、正に、先人の知恵袋といえます。

 

第1フレットの寸法 を、平均律で計算 される値より、短く設定 すること、

 To Shorten the distance between the nut and the first fret is to get the true intonation  for the guitar.

これは、 音律を正しくする秘密 なのでした。


では、引き続き、お読み下さい。

ギターの力学

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工房ミネハラ
Mineo Harada

Updated:2009/10/6

First Updated:2004/2/11