チェロの弦が弾かれて、駒を経由して表板に w の振動数の振動が伝わりますと、表板を振動させると同時に、その振動は魂柱を通して裏板にも伝わり、裏板全体を振動させます。 しかし、裏板には、q の部分の部分、すなわち、固有振動数 F#音(184Hz)付近の振動し易い部分が存在していますので、 仮に、表板の振動数がその固有振動数より多少離れていたとしても、裏板のその部分は、F#音(184Hz)付近の振動をはじめてしまいます。
裏板で始まった振動は、位相(振動が、その瞬間どちらの向きに向かっているか、という方向)が、表板の位相と逆向きになっていますので、裏板の振動の反力が、今度は魂柱を介して表板に伝達されます。
表板にとっては、弦の振動が、駒を伝わって強制振動されているにもかかわらず、今度は裏板から、逆向きの力を同時に受けてしまうので、本来の鳴り方が打ち消されてしまう結果となってしまうのです。
この時の音が、ウルフトーン です。 唸りのように聞こえる場合が有りますが、それは結果であって、元の原因は唸りでは有りません。
表板の振動数が、徐々に裏板の、q の部分、すなわち、固有振動数 F#音(184Hz)付近の振動し易い部分の振動数に近づくにつれて、裏板の振動もどんどん大きくなり、その結果、表板の振動を打ち消そう とする力もおおきくなってゆきます。 上の、図19において、w の振動数が、F#に近付くにつれて、表板の振動の振幅(図の縦軸)が急激に落ち込んで行くのは、そのためです。 このような時は、裏板の、q の部分の部分は、非常に大きく振動していることになります。
試しに、実際にチェロを弾いてこの現象を実感して見てください。 この実験は、手が3本あると楽に出来るのですが、一人では手が2本しか有りませんので、足も使って試して見て下さい。
まず、D線の開放弦 D を弾きます。 この時、空いている手か、足で、チェロの裏板に触れて、その時の振動の様子を掴んで下さい。 次に、F か F#(ウルフトーンが出る音程)を弾いて、(もうこの時は、手は空いていませんので)しょうがないので、足で裏板に触れてみて下さい。 多分、さっきのD を弾いた時より、裏板は激しく、強く振動していると思います。
よく鳴る、レスポンスの良い楽器は、この裏板の振動が大きく発生するために、余計に ウルフトーン が出やすいということになります。
また、D線 の開放弦から、A 位までの音は、何がしか、裏板からの影響を受け鳴り方が良く無いと言うことが、ある程度分かりました。 従って、D線 が良く鳴る楽器・・・これは希少価値の有る、良い楽器 と言えると思います。
さて、貴方のチェロは如何でしょうか。
すなわち、模式的では有りますが、
裏板が良く響き、よく鳴る楽器ですと、ある特定の音を演奏した時に、こんなに
表板の振動が打ち消されてしまう と言うことが、大雑把な試算からも分かりました。
ここで言う、表板の振動とは、駒の振動、あるいは、弦の振動と置き換えて考えても良いと思います。 すなわち、ウルフトーン の出る音を演奏する時は、弓まではじかれてしまうような感覚があります。 これは、裏板からの、位相が逆向きの反発力によるのためと考えられます。 |