チェロの力学

第3章 駒とテールピースの間も振動する?

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はい。 駒とテールピースの間の弦も、ちゃんと振動します。


去る、1月21日 (2000年)の、NHK BS2 で放送された、HEY! ミスターベースメン という番組をご覧になりましたか。 チェロではなく、ベースでしたが、フランスの ”オルケストラ・ドゥ・コントラバス” という 5人のコントラバスの演奏がありました。 コントラバスを逆さに抱えて、駒とテールピースの間を、ピッチカートで演奏し、実に見事な、珍しいパフォーマンスを聴かせてくれました。 

コントラバスは、駒とテールピースの間が長く、そこの音程を正しく合わせる事によって、ちゃんとアンサンブル出来るチューニングが出来ていました。

余談ですが、実は、その番組の中で、工房ミネハラ の このウッドベース が紹介されたのに、お気付きの方は居られましたか。

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さて、前置きはこの位にして、駒とテールピースの間の振動を調べて見ましょう。

第1章 弦の張力と固有振動数 で、各弦の張力を計算しました。 図7で、もう一度復習のため、C線の張力を計算してみます。 C線の固有振動数は66Hzですので、弦の張力は約10Kgと計算されます。 駒とテールピースの間の距離は12.5cmですので、この張力での固有振動数を計算すると、約365Hz という値が求まりました。

この値は、実際に弦を弾いて、その音程を聴いた物より少し高く計算されました。 それは、弦のテールピース端は、二重に巻かれていたりして、弦の長さが計算に使った値より短く見えて、実際の音は高くなっている物と考えられます。 しかし、その差は余り大きく有りませんので、計算結果のオーダーは信じてよい値です。

図7

段段と核心に近づいて行きますが、ウルフが出るチェロの場合、ウルフキラーは、G線の駒とテールピースの間に取り付けられる場合が殆どですので、それでは、同じ計算を G線について、図8で行って見ます。

これによれば、G線の張力は、約10.9Kgと計算されます。 駒とテールピースの間の距離12.5cmの部分の固有振動数は、約546Hz という値が求まりました。

G線の場合も、実際にその部分を弾いて聞き取れる音程 C音 528Hz より、若干高く計算されました。 しかし、その誤差の大きさは全く問題になりません。

この周波数を F:176 Hz まで下げる・・・部は読み飛ばして、図9に進んで下さい。

図8

第1章 弦の張力と固有振動数 で、各弦の張力を計算した時は、駒とナットの間の計算をしましたので、弦には集中質量が付いていない m=0 の場合を計算しました。

今度は、駒とテールピースの間に、ウルフキラー と言う、一種の重り (集中質量)を付けますので、その質量や、取り付ける場所で、駒とテールピースの間の固有振動数がどのように変わるかと言う事を調べて見ます。

前にも出てきた、(3)式とバネ定数kの式を使って、(6)式が出来ますが、これで大まかな事を調べて見ます。

(1) 駒とテールピースの間の真中に、ウルフキラー(集中質量) を付け、何も付けない場合より 1オクターブ 固有振動数を下げるための重り の質量は、その間の弦の質量と同じ大きさで有れば良いと言うことが分かりました。

(2) もし、2オクターブ下げようとしますと、弦の質量の5倍の大きさで有れば良いと言うことが分かりました。

図9

このことを、図10でもう一度検証して見ます。 

図10は、駒とテールピースの間の真中に、ウルフキラー(集中質量) を付け、付けない時の固有振動数より、固有振動数を1/Nに下げるための重り(集中質量)の値を計算したものです。

下の図から、1オクターブ 固有振動数を下げるための重り の質量は、その間の弦の質量と同じ大きさ、すなわち、m/ms=1で有れば良いと言うことが分かりました。

m/ms=5 すなわち、弦の質量の5倍の大きさで有れば、固有振動数は、N=4 下がることとなり、すなわち、2オクターブ 固有振動数が下がることが分かります。

図10

この章の終わりになりますが、ウルフキラー(集中質量) を取り付ける位置を変えると、駒とテールピースの間の固有振動数がどう変わるかを、図11で調べて見ました。

 と言う係数 (駒とテールピースの間のどの位置に集中質量が付くかという係数)を使って、駒とテールピースの間の固有振動数がどのように変わるかを、一番したの図に示しました。

ウルフキラー(集中質量) が、駒とテールピースの間の真中に付けられた時は a=0.5 で、固有振動数は一番低くなります。 この固有振動数をC=1 として、位置を変えると固有振動数がどれだけ増加するかという、増加係数をCとして図に示しました。

ウルフキラー(集中質量) の位置を段段駒の方に近づけて行くと、固有振動数は上がって行きます。 真中に付けられ時より、長3度音程を上げる位置は、a=0.2で C=1.25 (長3度上) となります。

すなわち、ウルフキラー(集中質量) を取り付ける位置を変えることによって、駒とテールピースの間の固有振動数を任意に変えることが出来るという事が分かりました。

図11

以上で、この章、駒とテールピースの間も振動する?は終わりです。

ウルフキラー(集中質量) を取り付けて位置を調節する・・・という事は、駒とテールピースの間の振動を利用するのでは???

という予測がご理解頂けましたでしょうか。

いよいよ次回は、レスポンスの良い楽器にまつわりつく、 ウルフトーンの問題に入ります。 ご期待ください。


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Updated:2008/5/23

First Updated:2000/11/11