チェロの力学

第2章 表板に加わる力と演奏時加振力

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チェロの弦の張力が、表板にどけ位の力を加えているか、また、演奏した時はどれ位の力が表板を振動させているか(加振力)を計算して見ました。 計算をしたチェロの寸法は下図の物です。


下の図2は、弦が駒に乗って張られている状態を横から見たところです。 弦は指板・ナット方向に約8度、テールピース方向に約20度の角度で張られています。

従って、単純なベクトルの計算から、4本の弦張力の合計を約50Kgと仮定すると、弦が駒を約24Kgの力で表板を押している事が分かりました。 すなわち、この力が表板に常に加わわっている力となります。

この値は、弦の全部の張力の、約1/2となります。

図2 弦が駒を押し付けている力

次は、弦を実際に弾いて、弦が振動している時には、どれ位の力が表板に作用しているかを求めたいと思います。

下の図3は、鋼鉄製の弦(一番中の芯線部)が力を引っ張られた時のひずみ(伸び)応力の関係を示したものです。 単純な、フックの法則 です。

弦の芯線部の太さなどは、図4に示すように、弦の種類によって異なっています。 ここでは、JARGER の C線について計算して見ました。 C線の線径は 0.45mm ですので、それらの値を代入して、C線が約10Kgの張力で張られている時の伸びを計算して見ました。

その大きさは、テールピースに引っ掛けている部分からナットまでの、81.5cmの部分で、約2.4mm伸びている事が分かりました。 ちなみに、この時弦の引張応力は、約63Kg/mm*mm でした。 この値では、絶対に弦は切れることは有りません。 要は、C線は丈夫ですが、弦を張った時は、暫くは伸びて、チューニングが狂うという事が分かります。(ただし、すぐに伸び切って安定しますが)

図3

図4

それでは、いよいよ、弦を実際に弾いて、弦が振動している時には、どれ位の力が表板に作用しているかを求めたいと思います。

図5 は、弦の中央部が横に w だけ動いた時に、弦がどれ位伸びて、弦の張力が増えるかを、簡易的に三角形にモデル化したものです。(実際は、ハーモニックスカーブですので、こんなに簡単なモデルでは無いとおもいますが)

この w を、弦の真中辺の振幅と考えます。

弦の真中辺が w だけ動いた時には、弦の長さは (11−1)式で計算されます。 元々の弦の長さは l でしたので、(11−2)式のようにひずみが増加した事になります。 このひずみの値を、前回と同じフックの法則の式 (11−3)式に代入すると、張力の増加分が計算できます。

C線の最大振幅を 10mmと仮定して (w=5mm)、(11−3)式で計算すると、張力の増加分 ΔT=0.343Kg と言う値が得られました。 以外と小さな値です。

図5

この張力の増加分の値で、駒を経由して表板がどれだけ押されるか? は、図2 で計算した結果から分かります。

すなわち、張力の増加分の約1/2の大きさの力が、表板を押す事になります。

従って、図6 のように、表板を振動させる加振力は、(11−5)式で表せます。 この最大の値は、170gr となり(これは、C線が最大振幅を 10mmで振動した時)、意外と小さな、微妙な大きさである事が分かりました。

図6

このような小さな力でも表板や裏板が良くレスポンスして、良く鳴る楽器が、本当の名器なのでしょうか。

表板に加わる力と演奏時加振力編はこれで終わりです。

次回より、いよいよ、レスポンスの良い楽器にまつわりつく、 ウルフトーンの問題に近づいて行きます。 ご期待ください。

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この 第2章 表板に加わる力と演奏時加振力 に関連して、バロック時代の楽器を検証してみましょう。

バロック時代の楽器は、その構造上の強度の制約から、ネックの角度が小さく、従って駒も低い楽器でした。 ネックの角度が小さく、駒も低いと、表板に加わる力はどれ位小さくなるか、試算して見ました。

仮に、このページのトップにある寸法の楽器より、駒の高さが 10mm(約10%強)低い楽器だったとしたら、どうなるか計算して見ました。

この場合、弦は指板・ナット方向に約7.2度、テールピース方向に約15.2度の角度で張られる事となり、 もし同じ弦を張って4本の弦張力の合計を約50Kgと仮定すると、弦が駒を 約19Kgの力で表板を押していると言う結果になりました。 この値は、元の駒の高さのものより、約20% 小さくなりました。 やはり、ネックの角度が小さくし、駒を低くすると、表板(胴)にかかる力は小さくなる事が分かりました。

同様に、演奏時の加振力も、最大の値は、137gr となり、約20% 小さくなりました。

やはり、バロック時代の楽器は、余り大きな音が出せなかった事も分かりました。


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Updated:2008/5/23

First Updated:2005/4/28