弓の力学 (5)

   第2章 弓の強さ・柔らかさを考える

red.gif (61 バイト)

 いよいよ、本論の一つに入ります 

弓先は大きく動く 中央付近でスティックが毛に近づいてしまう 親指の位置を中心に回転運動する

弓の強さは十分ですか・・・

それは、弓の性能に大きく影響しています。

 

あなたの弓の 強さ・柔らかさ・・・果たしてどれくらいでしょうか。

 

弓に圧力 (荷重) を掛けると・・・

実際の演奏時には、ppp のような小さな音の場合でも、弓には何がしかの圧力(荷重)を掛けておく必要があります。

 

ましてや、fff の場合などでは、相当の圧力をかける必要があります。 チェロ弾きの方の右手の人差し指の真中と親指の先には「硬い豆」が出来ていると思います。 それ程、チェロ弓というのは、力を掛けて演奏する必要があるものです。 チェロの演奏は体力勝負です。

 

ですから、チェロ弓はその力に耐えられる・・・と言うより、その力を 有効に弦に伝えることが出来る能力 を持っている必要があります。

 

この章では、チェロ弓に圧力(荷重)を掛けた時、弓がどのように変形し、姿勢が変わるか・・・、それが、前章で考えてきた毛の張力(スティックの強さ)とどのように関係しているか・・・などを検討して行きます。

 

初めに、弓に圧力(荷重)を掛けた時、弦にどのような力が伝わるか・・・、逆に考えると、弦に圧力を掛けるには、弓にどのような力を掛ける必要があるか・・・を考えます。 その状態を、 図 10 弓に圧力(荷重)を掛けた状態 その(1)に示します。

図10 弓に圧力(荷重)を掛けた状態 その(1)

上の図で、Ph は、弓の毛が弦を押している力(圧力)と考えてください。 

 

    Phl (1-x) = Pl2    と言う関係がありますが、要は、加えた荷重 P と弦に働く力(圧力)Ph は、 てこの比 (レバー比)  の関係にあると言うことです。

すなわち、弓の毛が弦を押す力(圧力)が小さい場合は、人差し指が加える荷重 P も小さくて良い・・・

 

ここで、 と言う数値を使っていますが、これは、弓の先からの位置を表す数値で、下の表のような位置であることを示します。

x 0.25 0.5 0.75
毛が弦に当たっている位置 先から 1/4 の位置 弓中央 先から 3/4 の位置

    Phl (1-x) = Pl2   と言う関係ら、当然 弓の毛が弦を押す力(圧力)Ph を同じ (同じ圧力で弾く)  とするときは、 の値が小さい弓先の方が、人差し指が加える荷重 P は大きく必要であることが分かります。 当り前のことでした。

 

 この 「弓の力学」では、荷重 P を人差し指が加える位置を l2 として検討し、通常の大人の手の大きさから l2 = 4.5 cm  として計算を行いました。

 

上の図で、もうひとつ重要なことは、弓の毛を弦に当てて、弓に圧力を掛けると、弓の姿勢が大きく変わる・・・ということです。 これは、毛が曲がって、弓先が大きく動く・・・ものと、掛った荷重でスティックが僅かに撓んで変形する・・・と言うものの両方があります。

 

何れにしても、右手は、加えた力 P と、弓の姿勢の変化 θ を感知しながら、 弓を絶妙にコントロールして演奏  しているものと考えられます。

それが、演奏テクニック・・・というものでしょう。

 

力学的に考えると、加えた力 P で、弓の姿勢 θ が変化する・・・と言うものは、 バネの作用  ですので、

今後、このようなパラメーターを ***バネ定数  などと表現してゆきます。

 

それでは、いよいよ 図 11 弓に圧力(荷重)を掛けた状態 その(2) で、弓の毛を弦に当てて、弓に圧力を掛けた時の、弓の姿勢の変化について見てゆきましょう。 少し細かなパラメータの設定になっていますが、そんなに難しい話ではありません。

図11 弓に圧力(荷重)を掛けた状態 その(2)

(A) は、上で述べた  Phl (1-x) = Pl2  加えた荷重 P と弦に働く力(圧力)Ph が、 てこの比 (レバー比)  の関係にあると言うものです。

 

(B) は、こちらの 図4 スティックの撓みの計算式 その2  で述べた、弓に加えた荷重 P で スティック中央がどれ位撓むか(変形するか)の計算式です。

 

(C) は、弓に加えた荷重 P で スティック先端がどれだけ動くか・・・先端変位 d を計算するものです。

 

(D) は、弓に加えた荷重 P と スティック先端が動いた・・・先端変位 d の関係を、比例的に扱うために 先端バネ定数 Kt というパラメータを導入したものです。  すなわち、荷重点(人差し指の位置)に加えた荷重 P が大きければ、先端変位 d は比例的に大きくなる・・・というもので、その比例係数を 先端バネ定数 Kt と定義しました。 ここで、一つの留意点は、先端バネ定数 Kt は弦に毛が当たる位置、 の値により変わる・・・ということです。 当然、の値が大きい弓元を当てたとき、先端変位 d が大きいことは分かります。 逆に、弓先を当てた時は、先端は殆ど動きません。

 

(E) は、弓の毛とスティックの間隔などを導き出すためのパラメーターで、三角形の比例計算などでわかる数値です。

 

(F) は、弓に加えた荷重 P で スティックの中央部の毛とスティックの間隔を計算するもので、この値が極端に小さくなってしまう弓は弾きにくい・・・と考えられます。

 

(H) は、荷重 P を掛ける前と後で、スティック中央がどれだけ変位するか・・・それを、スティック中央変位 ds として計算しています。 すなわち、弓を持っている右手は、この値を感知して 弓が堅い・・・柔らかい・・・ などを識別しているものと思われます。 この値も、弦に毛が当たる位置、 の値により変わります。 この、スティック中央変位 ds と言う数値は、スティックの撓みだけでなく、荷重 P で弓の先端が動く先端変位 d の値も含んでいます。 たとえば、毛の張力が弱い弓で、先端変位 d の大きい場合は、スティック中央変位 ds が大きい・・・と感知するはずです。

 

(I) は、弓に加えた荷重 P と スティック中央変位 ds との関係を、比例的に扱うために 中央バネ定数 Km というパラメータを導入したものです。  すなわち、荷重点(人差し指の位置)に加えた荷重 P が大きければ、スティック中央変位 ds は比例的に大きくなる・・・というもので、その比例係数を 中央バネ定数 Km と定義しました。  当然、この値も、弦に毛が当たる位置、 の値により変わります。

 

以上が、弓の毛を弦に当てて、弓に圧力を掛けた時の、弓の姿勢の変化を求める計算式です。


弓の姿勢の変化を計算してみる・・・

表4 スティック係数 から、弓の姿勢の計算結果 は、前章で求められた スティック係数 を基にして、上の計算式で弓の姿勢の変化を計算したものです。

 

Excel から直接貼り付けましたので、データが大きく、表示に時間がかかることをご承知ください。 また、もしかすると表示がおかしいところがあるかもしれませんが、そのような場合は、ご連絡ください。 なお、この表には、別な章で検討するデータも含まれています。 小さな画面サイズのPCではご覧になり難い点は、お許しください。

 

さて、前章の こちらの では、スティック係数 から 毛の 初張力 Th  を、それぞれの弓の張り、すなわち 弓の毛間隔 d2 の値で計算しましたが、 ここでは、弓の能力を比較するために、 すべての弓の毛間隔 d2 の値を、 限界d2  として  12 mm  まで張った状態で計算して比較しています。

 

加える荷重 P は、弦に働く力(圧力)Ph が どの位置でも  200 gr   となるとして、 毛荷重一定  の条件で計算してあります。

 毛荷重   200 gr   というのは、結構大きな音を出すときの圧力となります。

表4 スティック係数 から、弓の姿勢の計算結果
 

Cello Bow                           限界 d2 で毛を張って、毛荷重一定の条件で、振り子振動のバネ定数を計算                                
                                                                  リンク貼付                                    
  リンク貼付されるデータ 限界 d2 を、ここで入力する

リンク貼付

  (44) による計算 (44) による計算 実測値
 
(参考)

中央
バネ定数
計算値/
実測値
(44)     (44) 限界 d2 のとき 当初の d2 のときの、 毛張力と振り子振動のバネ定数
  Cello Bow 材質 形状 重量、重心 長さ (cm) 太さ (mm) 荷重−撓み(実測) 振子
振動数

実測
平均値
(Hz)
撓み δの検証・・・E を検証 毛荷重 Ph(gr) 荷重点 l2 (cm) の値は、ここで入力する 限界 d2
(計算値)

先端
バネ定数

( kt )
 
(gr/mm)
 
先から
位置
x
Cello Bow   荷重点 l2 に、P 振子振動 荷重点 l2 に、P 振子振動の計算 (40) d2増加
毛張り
有無

限界
d2
Stick

間隔
(mm)
中央
荷重
(gr)
弓中央撓み δ (mm) 断面2次モーメント 両端支持の中央撓み δ   200 4.5 先端
変位
(計算値)
d
(mm)
Stick

間隔
Gp
(mm)
Stick

接近
hc
(mm)
Stick
中央
変位

ds
(mm)
中央
バネ定数
(計算値)
(Km)
(gr/mm)
中央
バネ定数
(Km)
(gr/mm)
(37)

スティック
係数

α

(kg/mm)
(44) 毛張力 (Kg) バネ定数 K(x) (37) 毛張力 (Kg) (38) バネ定数 K(x)・・・実測値と良く一致 1 mm  
Ws
Stick
(gr)
W
全重量
(gr)
lG
重心
(cm)
全長 ls
Stick
l
中央 荷重前 荷重後 撓み
δ
等価
直径d
(mm)
I
(mm)
長さ
(mm)
推定 E
縦弾性係数
Kg/mm*mm
撓み
δ
中央
荷重 (gr)
荷重点
荷重
P (gr)
Stick
中央撓
dp
(mm)

Th
初張力
(Kg)
押圧
増加
(Kg)
Tp
合計
(Kg)
(45)
毛張力から
計算値
(g*cm/rad)

Th
初張力
(Kg)
押圧
増加
(Kg)
Tp
合計
(Kg)
(45)
毛張力から
計算値
(g*cm/rad)
(実測値)
(g*cm/rad)
(参考)
計算値/
実測値
増加
ΔTh
初張力
(Kg)
増加時
初張力
Th
(Kg)
振子
振動数
fo
増加比
1 Sandner                                   53.5           400.0 1,791 2.0 0.0 10.0 2.0 2.0 885 885 1.00 0 0.00 Sandner     2.0 12.9     2.0 11.9