<事例紹介>にある絵は、図13 一定の圧力
(200 gr) で弾いた時の スティック中央変位 ds
を縮小したものです。
@
図の一番下にある 2本は カーボンファイバー製の弓の
Arcus Bow です。 この弓の 推定
E
縦弾性係数 は、10,000 を超える値で、スティックはとても堅い弓です。 したがって、弓の先端が弦に当たっている状態・・・すなわち、 x
= 0
の時のスティック中央変位 ds
は、1.1-1.2
mm
と、他の弓に比べ大変小さな値です。 従って、弓元から弓先弾いて行く時に、先に行くにつれてスティックのしなりが無くなる…と感じられるはずです。 すなわち、
スティックのしなやかさに欠ける
・・・ということになります。
B の事例は、推定
E
縦弾性係数 は、1,950 と、この 13本のチェロ弓の中では最も小さな値に属します。 この弓は 角弓 で、断面2次モーメント
I の値は、やや大きく作られていますが、それでも、材料の曲げ剛性 を示す E・I 積の値がさほど大きく確保できていないために、
x
= 0
の時のスティック中央変位 ds
は 2.3 mm
と大きな値になっています。 また、直線的に変化する傾き も比較的大きく、弓元に行った時には、スティック中央変位 ds
が非常に大きくなってしまい、圧力が逃げてしまうような感じになります。
すなわち、
軟で、頼りない
・・・ということになります。
A の事例は、30万円超の J.P.Gabriel
G-30 の例ですが、推定
E
縦弾性係数 は、3,000 を超える値で、ウッドボウの中では最高の値の材料で作られた弓です。 この弓の場合は、x
= 0
の時のスティック中央変位 ds
は 1.7 mm
と程よい値であり、また、直線的に変化する傾き も寝ているために、弓元から弓先弾いて行くっても、弓のしなりが極端に変わらず、したがって、弓の全域でしなりを感じられる弓です。
この様な弓が、
程よい堅さと しなやかさを持つ弓
・・・ということになります。
ここで、もう一度、角弓 と 丸弓 の違いを見てみましょう。
図13 からも明らかなように(AC-30
は例外とする)、角弓 のほうが、直線的に変化する傾き が大きいことがわかります。 角弓 は弓元から弓先弾いて行くにつれて、スティック中央変位 ds
が小さくなる・・・即ち、弓先に行くと、 しなやかさがなくなる
・・・ということになります。
なぜなのでしょうか。
それは、こちらで説明した、毛の
初張力 Th
を与えるメカニズムの違いにあります。 角弓 の場合、毛を張らない状態の毛間隔
d1
が大きく作られ、したがって、毛を張る時のスティック中央の撓み
dt
が小さいのが普通です。 Arcus Bow
がその典型的な例です。
図14−(2)
に、ds
= ( B
- 2A ) x + 2A
という式がありますが、 直線的に変化する傾き というのは、(
B - 2A )
に当たります。 この値が大きいと、直線的に変化する傾き が大きい・・・ということになります。
詳しくは、こちら。
ここで、ds
= ( B
- 2A ) x + 2A
という式を、一般的な1次方程式である、ds
= a x + b
という式に置き換えて、直線の傾き
a と、x
= 0
のときの値を示す 定数項 b を 13本のチェロ弓について計算してみました。 その値を、下表に示します。
一定の圧力
(200 gr) で弾いた時の スティック中央変位 ds
計算式の係数と定数 単位:mm
Cello Bow |
形状 |
直線の傾き
a |
定数項
b |
A |
B |
E・I 積
(×1,000,000) |
<事例紹介> |
Sandner |
丸 |
1.4 |
2.0 |
1.0 |
3.4 |
0.92 |
|
Arcus Veloce
(注) |
丸 |
1.9 |
1.1 |
0.5 |
3.0 |
1.77 |
@ |
J.P.Gabriel G-30 |
丸 |
1.2 |
1.7 |
0.9 |
2.9 |
1.04 |
A |
J.P.Gabriel G-18 |
丸 |
1.4 |
2.2 |
1.1 |
3.6 |
0.84 |
|
AC-30
(注) |
丸 |
4.2 |
2.5 |
1.2 |
6.7 |
0.72 |
|
CB-150 |
丸 |
1.7 |
2.7 |
1.4 |
4.4 |
0.67 |
|
CB-200 |
角 |
2.1 |
1.7 |
0.8 |
3.8 |
1.12 |
|
CB-380 |
丸 |
1.4 |
2.3 |
1.1 |
3.7 |
0.79 |
|
CB-500 |
角 |
1.8 |
2.3 |
1.2 |
4.2 |
0.78 |
B |
RC-16 |
角 |
1.8 |
1.8 |
0.9 |
3.5 |
1.04 |
|
Carbow |
丸 |
1.1 |
2.1 |
1.0 |
3.1 |
0.89 |
|
Carbondix |
丸 |
1.4 |
2.1 |
1.0 |
3.5 |
0.88 |
|
Arcus Sonata |
角 |
2.1 |
1.2 |
0.6 |
3.3 |
1.61 |
@ |
この表の数値からも明らかに、角弓 のほうが、直線の傾き
a が大きいことがわかります。
(注)ただし、Arcus
Veloce は、推定
E
縦弾性係数 が、10,000 を超える材料で、毛の
初張力 Th
を与えるメカニズムが角弓 に類似する。 AC-30
は、へなへな弓であるために、考え方から除外する。
|